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「日本版司法取引制度」とは |ご存じ?Q&A

組織的な犯罪(企業の関わる経済犯罪など)の解明を目的として導入された捜査・公判協力型の協議・合意制度のことで、米国における同様の制度を参考に、刑事訴訟法の改正により施行された、これまで日本には無かった制度です。

実際に何の見返りもなしに、他の共犯者の捜査・公判への協力を求めるのはとても難しいので、検察官に対し真実に合致する供述をしたり証拠を提出するという協力行為の見返りに、自分の起訴を見送ってもらったり、起訴された場合でも軽い求刑をしてもらったりできるようにする仕組みのことです。大きな特徴は、他人の刑事事件の捜査・公判に協力するという点です。自分の罪を認める代わりに不起訴などを約束してもらうもの(自己負罪型)ではありません。米国ではその両方が認められていますが、日本では協力型だけが導入されたので「日本版司法取引」といわれています。

同制度では、対象となるのは主に談合、贈収賄などの経済犯罪と違法薬物売買などの組織犯罪です。手続きとしては、被疑者・被告人と検察官とが取引を合意するにあたり、対等な協議が制度の前提となることから、弁護人の同意が必要とされます。さらに、両者の協議の段階から、弁護人の関与が必要とされます。また、合意が成立した場合、両者の合意を記載した書面である「合意書面」が作成されます。

同制度の問題点としては、司法取引を実施した結果、供述証拠を偏重し客観的証拠収集の捜査がおざなりになれば刑事裁判手続きの事実認定の確度が低下し、冤罪を招き、国民の刑事裁判に対する信頼を失墜する懸念があります。

2018年6月に施行された制度ですが、冤罪発生の危険性を完全に払拭する有効な手立ては存在しないなかで、この「日本版司法取引」が、新たな冤罪を生む危険性をはらんだ制度として存続していないか、常に批判的視点をもって、検証し続けていくことが肝要です。

(2024/03/29)