シリーズ

「星の王子さま」を世に贈った サン=テグジュペリ その2 |わたしの歴史人物探訪

「星の王子さま」とは

箱根の風景にとけこむミュージアム

サン=テグジュペリの精神世界を一応、了解したとして、完成された長編としては遺作となった「星の王子さま」の世界にちょっと入ってみよう。
彼の手となる可愛らしい挿絵も加わったこの書は、多くの言語に翻訳され、世界各国の子どもたちばかりでなく大人の間にも愛され続けている。
しかし10歳くらいの子どもが、ここに書かれた内容のすべてといわずとも理解できるとは信じ難い。
そして有名な一節「いちばん大切なことは、目に見えない」を大人が安易に読み聞かせたら、子どもに「それじゃお母さん、目に見える私は大切ではないの?」と切り返されて困ってしまうかもしれない。
この意味するところは、日頃当然と思い込んでいる価値観を、読者がふと見なおす導入剤なのだ。
多くの大人は、人生への示唆に富んだ内容を、あるいは夢幻性を強調し、ただ手放しに褒め称ようとするが、作者が語りたい真意は、いかようにも解釈できそうなのだ。
ある人は一篇の詩歌と捉え、ある人は大人になったサン=テグジュペリと、幼き日の自らを重ねたお話と読もう。
そう考えるなら、一日に44回も夕日を眺めることのできるほど小さな星から、砂漠に不時着して機を修繕している僕の所へやってきた王子とのやり取りや、その言動にいちいち説明を付与しようとするのは無意味でないのか。
ただキツネや僕やたった一輪の誇り高い花との心通う会話、いくつかの星に住む何とも不可思議な大人たちの言動から感じ取る何かを気楽に、素直に受け入れるひと時を持てたらと思える。
そして挿絵の愛らしさに、しばし心和ませるだけでも良いのではと。

2011年3月11日の災害は、自然の猛威の測りがたさを日本だけでなく世界中の人びとに再認識させたばかりでなく「誤る可能性のあるものを人間は必ず誤る」という言葉も改めてその胸に刻み込ませた。
20世紀初頭に現れた飛行機について、映画監督の宮崎 駿さんは「人間の土地」の後書きに一節を設けている。
軍事目的を主に、異様な発達を続けてきたこの凶暴な機械は発展と実働の過程とでいったいどれほどの人の命を奪ったかと。
目覚ましい飛躍を遂げてきたこの輸送機械は、しかし今日でも「絶対に安全な乗り物」であり得ていない。これからも、だろう。
しかし、多くの事故を経験したサン=テグジュペリの著述にそうした認識は見られない。
先の「人間の土地」の中で「飛行機も目的ではなくて一個の道具なのだ」そして「ぼくらはすべて、いまだに新しい玩具がおもしろくってたまらない野蛮人の子どもたちなのだ。ぼくらの飛行機競争もこれ以外の意味をもちはしない。(中略)この一機はより速く飛ぶ。なぜそれを飛ばすかということを、ぼくらは忘れている。競争のほうが、さしあたり、競争の目的より重要視されている」と言う。
その生涯の少々を辿り、作品のいくつかに接すると、誰も指摘しないがサン=テグジュペリが「高い身分に伴う徳義上の義務(Nobless Oblige」を強く抱いていたように感じられる。
それに対する評価は別として、貴族の家に生まれた自分という責任感を表層、深層双方の意識に強く持っていたと。
結婚生活がそう平穏でなかったのは聖人君子でもなかった芸術家肌の彼に、その原因が多く求められると伝えられている。
そんな人間臭い面を有する彼が、あれほどに徹底した行動人であったこと、厳しく自らを律し続けたのは、そうした精神背景を持っていたからと考えるのだ。
2003年、マルセイユ沖から機体が引き上げられ、想像はされていたが、ナチスの戦闘機隊に遭遇し撃墜されたのはほぼ確実となった。

季節ごとに表情を変えるヨーロピアンガーデン

サン=テグジュペリ44歳、夏の出来事だった。

★箱根 仙石原にある「星の王子さまミュージアム」は作者「サン=テグジュペリ」の生涯と「星の王子さま」の世界を「巡る旅」へといざなう素敵な空間です。
箱根旅行の行程に是非加えてみられればとおすすめします。
星の王子さまミュージアム
〒250-0631 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原909
TEL:0460-86-3700 FAX:0460-86-3701
HP :?http://www.tbs.co.jp/l-prince/index-j.html

● 営業時間:9:00~18:00(最終入園17:00、展示・映像ホール17:30まで)
年中無休
● 入園料
一 般 1,600円(前売 1,400円)、シニア(65歳以上) 1,100円、
学 生(要学生証) 1,100円、小中学生 700円(前売 600円)、
団体割引:15名様以上→200円引き

(2014/10/06)