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「働き方改革」の選択肢(4) |人権情報

ますます重要になる「評価&目標管理」の仕組み

いろいろと綴ってきましたが、私は「働き方改革」にこそ不可欠なもののひとつが、時間という量の評価から、仕事の質の評価への転換だと考えています。そもそも効率化における三大悪は、仕事の属人化、非生産的な会議、自己満足化した過剰品質といわれています。「自分にしかできない」仕事を「長時間」かけて取り組み、頑張っていることが評価される風土であれば、必然的に労働時間は拡大していきます。また、労働時間が長い人ほど、上司は残業している人に対して「頑張っている人」などのポジティブなイメージを持っていると感じている傾向が強いという結果もあります【図4】。

【図4】一日の労働時間別「上司が抱いている残業をしている人のイメージ」(想定)

出典:内閣府「ワーク・ライフ・バランスに関する個人・企業調査」2014

では、どんな評価システムを導入すれば、より生産性があがる風土に繋がるのでしょうか。私は、評価システムだけでは風土改革は困難だと思っています。所詮、評価には主観が入ります。またそもそも、評価ができる目標をマネジメントが提示できているかどうか、「何をやったら私は報われるのか」を明確にすることなしに、評価の精度はあがりません。ましてや、どれだけ目標を明確にしてみたところで、この変化の激しい時代にあっては計画した目標がそのまま一年間修正なく進められるとも限りませんし、人の仕事のすべてを「目標管理化」することは不可能。評価は主観であると理解して、関係者が徹底的に議論することが必要だと感じています。

ユニリーバ・ジャパンでは、1人の部下に対して、上司や関与者4~5名が話し合うピープルフォーラムを年に2回実施しています。上司として見えている部分と、他部門のマネジャーから見えているものは違うという認識があるのだそうです。
LIXILでは、一次評価者、二次評価者、人事2名の計4名で、全社員の評価について議論する場をつくっています。これだけ大規模の企業でも、一人ひとりに向き合うことはできるのだということを教えられます。
「働き方改革」は、不平不満の温床になりがちであった、人事評価や目標管理の在り方にもメスを入れるものになりうるかもしれません。

それは自社を強くすることに繋がるか

「資生堂ショック」「ヤマト運輸ショック」なるいくつかのショックが立て続けに報じられてきました。いずれも「働き方」ひいては「働かせ方」を問うものでした。その背景にあるのは、消費者のサービスへの高度化し続ける要求、現場にかかる負荷、そして昭和の人生すごろく【図5】では語りつくせない労働者の生き方の多様化、にも拘らず、慢性的な人手不足。もはや、働く人から選ばれる企業でなければ生き残ってはいけません。行政の指導もあり、まずは各社が「マイナス(法令違反等)」を「ゼロ」に近づけるべく、取り組みを重ねてきました。

【図5】

出典:経済産業省/次官・若手プロジェクト「不安な個人、立ちすくむ国家」2017年5月

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

労務分野には「ノーワーク・ノーペイ(働かざる者、食うべからず)」という言葉がありますが、むしろ逆です。「ノーペイ・ノーワーク」。払わないのに働かせてはいけない。今まで、日本の企業はあまりにも働く人の「善意」に頼りすぎてこなかったか。
日本では「それ、おかしいんとちゃう?」となったら、変わるときは一気に変わります。職場での煙草しかり、ゴミの分別しかり。社会全体が「誰かが我慢をしなければならない働き方」はおかしいんとちゃう?ということになったら、「働き方改革」は一気に進むのかもしれません。

とはいえ、「働き方改革」にゴールはありません。手段だからです。そして奇策も特効薬もない。 ここからは、「ゼロ」を「プラス」にもっていくための「働き方改革」であってほしいと願います。マイナス要素のものを、通常レベルに戻す時には抵抗勢力はいないけれども、通常レベルのものをあるべき姿にしようとすると抵抗勢力は現れるものですが、全ての原点は、「組織の将来像」「実現へのプロセス」を、「如何に具体的に描き」「如何に強く念ずるか」かもしれません。とにもかくにも「それは自社を強くすることに繋がるか」なる自問自答。日本のこの現状は、日本のノビシロです。「働き方改革」の先に、たくさんの笑顔があるはずです!

 

株式会社オフィスあん/代表取締役 松下直子
(社会保険労務士、人事コンサルタント)

(2018/05/07)


松下直子さんの詳しい プロフィール http://oan.co.jp/company/member