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【特集】堺市の歴史と人権を学べるスポット(その1)「さかい利晶の杜」 |人権情報

堺市は、世界遺産に登録された仁徳陵天皇陵古墳をはじめとする百舌鳥古墳群のほか、長い歴史の中で継承されてきた数多くの歴史文化資源を有しています。また、人権擁護都市宣言と非核平和都市宣言を掲げ、お互いの人権を尊重することの大切さや平和の尊さを訴え、次世代に伝える「国際平和人権都市・堺」の実現に向け、積極的な取り組みを行っています。

人権スポットしては舳松人権博物館などが有名ですが、今回と次回にわたり、堺市の歴史と人権を学べるスポットとして(その1)「さかい利晶の杜」と(その2)「堺市博物館」をご紹介します。

(その1)「さかい利晶の杜」

さかい利晶の杜観光案内展示室フロアマップ

「さかい利晶の杜」は、南海本線堺駅より徒歩約10分、旧市域の中心部にあった市民病院(市立堺病院)の跡地に2015(平成27)年3月20日に開設され、日本近代文学を切り拓いた歌人与謝野晶子と、茶の湯を確立した千利休の生涯や人物像などを通じて、堺の歴史・文化の魅力を紹介するミュージアムです。

施設内は、観光案内展示室・与謝野晶子記念館・千利休茶の湯館・茶の湯体験施設などに分かれており、楽しみ方はいろいろあります。

今回、さかい利晶の杜の矢内学芸員にご案内いただきました。

 

【与謝野晶子記念館】

1878(明治11)年に堺県(現大阪府堺市堺区)に生まれた与謝野晶子は「みだれ髪」をはじめ多くの詩歌集を出版し、また「源氏物語」の現代語訳や、女性問題、教育問題にかかわる評論活動まで行い、明治・大正・昭和という激動の時代にあって、常に新しい世界に挑戦し、表現し続けました。「晶子の装幀(そうてい)」のコーナーでは、晶子の本は造本に凝った色彩豊かな本が多く、美術品としても高い価値があります。それは夫である与謝野寛(ひろし)(号:与謝野鉄幹)の「後世に残るものでなければならない」という考え方によるもので、著名な画家たちが手がけた装幀が一堂に展示され、晶子の代表作である「みだれ髪」は一段と目を引きます。また「寛と歩んだ人生の軌跡」のコーナーでは、晶子は22才で寛と出会い、翌年結婚、12人の子どもの母となり、寛が亡くなるまでの34年間をともにする様子がよくわかります。師弟、同志、そして夫婦であった晶子と寛は、互いの才能を認め合い、終生かわることのない愛情と尊敬、信頼の絆で結ばれていたそうです。他にも晶子の生家和菓子商「駿河屋」や執筆活動をしていた書斎の再現コーナーもあります。

晶子と寛は、日本で最初に中等教育課程における男女共学制を導入した私立学校である「文化学院」の創立にもかかわり、晶子の教育論は、子育ての経験を基にした芸術的な自由教育の実践から、男女平等教育へとより具体的なものになっていったそうです。

「晶子のメッセージ」を案内する矢内学芸員

最後に与謝野晶子は当時の政府のスペイン風邪感染症対策を、「政府はなぜいち早くこの危険を防止するために、多くの人間の密集する場所の一時的休業を命じなかったのでしょうか」などと、厳しく批判していたそうです。今回の新型コロナウイルス感染症対策についての議論を彷彿とさせるエピソードです。また、女性の参政権要求運動を展開した晶子の思想家としての冷静さ、客観的な判断力で男女平等を追求した様子には、時代を見通す先見性と魅力があふれていました。

 

【千利休茶の湯館】

1522(大永2)年、和泉国・堺の豪商「ととや」に生まれた「千利休」は、その生涯の前半を堺で過ごしました。その利休と堺のかかわりを読み解き、利休や堺のまちと天下人とのつながりや、利休によって革新・大成された茶の湯(わび茶)が分かりやすく紹介されています。利休と茶の湯の歴史文化・平等思想を実感することができます。また画面を触るとさまざまな解説が浮かび上がり、行列の中には、南蛮人に扮する堺商人も見受けられ、堺の人たちと世界の深い交流が感じられます。「茶室(床部分)の想定」のコーナーでは、堺今市町にあった利休屋敷の武野紹鷗(堺の豪商で、利休の茶道の師の一人と言われている)に倣(なら)った茶室の床と、最晩年を過ごした京聚楽屋敷の茶室の床を想定した比較展示や紹鷗や利休の茶の湯と、その時代に関連した資料が展示されています。VR体験による「タイムトリップ堺」のコーナーでは、2021(令和3)年4月7日からVRスペースが新設され、環濠都市として栄えた堺のまちの体感できます。

 

また「さかい待庵」は、利休作の唯一現存する茶室である、京都府大山崎町の妙喜庵にある国宝「待庵」の創建当初の姿を復元したものです。その広さはたった2畳、足元から天井までも2mほどの高さと、とても小さな造りです。利休の考案した二畳隅炉の狭い茶席は、身分や権力の上下、国籍など関係なく、亭主と客の関係で双方の人間の値打ちが明らかになるという、利休の自由と平等の精神を感じることができます。利休はこの考え方を、貴賤平等と言う言葉で表現しています。

 

【さかい利晶の杜の取材を終えて】

ここでは、誰もが与謝野晶子の文芸と千利休の茶の湯を楽しめることができ、また堺の歴史文化について学ぶための展示が豊富な素晴らしいミュージアムでした。機会があれば、読者の皆さんもぜひ一度訪ねてみてください。

与謝野晶子記念館では、「晶子のメッセージ」として戦時中に晶子が残した言葉の数々が、当時の女性の立場や社会の様子をわかりやすく物語っていることに気づかされます。

その中で特に「女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん」(「婦選の歌」より)や「女もまた人である」(「婦人と自尊」『愛、理想及び勇気』より)については、女性の人権と地位向上を熱く社会に訴えた晶子の想いが、また、代表作「君死にたまふことなかれ」(文芸雑誌『明星』1904年9月号発表)は、日露戦争に出征した激戦地にいるであろう弟のために詠んだ魂の反戦詩で、現代に生きる私たちの心にも何か強く響くものがあります。

 

利晶の杜  https://www.sakai-rishonomori.com/

所在 大阪府堺市堺区宿院町西2丁1番1号

お問合わせ TEL.072-260-4386

 

(次回、堺市博物館に続く)

(2025/02/06)