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災害と人権 ~企業への期待を中心に~ (その2) |人権情報

【BCPからCCPへ】

企業における災害時対応では「BCP(Business Continuity Plan)」、事業継続計画の策定が奨励されています。これは災害時に自社の商品の製造やサービスの提供をいち早く復旧させ、事業継続を通じて被災地の支援にもつなげようという考え方で、すでに計画策定済みの事業所も多いと思います。しかし、いままで述べてきたような人口変動による自助や共助の収縮を考えると、事業の継続だけでなく、事業所のある地域全体の安心・安全を回復させることにも視野を広げ、共助の活動への参画や、さらには自助や公助の領域への支援も含んだ計画「CCP(Community Continuity Plan)」を策定しておくことをお勧めします。
実際にある被災地で、早期に販売を再開された食品加工メーカーさんは、従業員から「まだ自宅の片付けも済んでいないので、仕事に出られない」といわれたり、「避難所で不自由な暮らしをしているので、出荷する商品があるなら被災者に提供して欲しい」「トラックが出せるなら物資を運んで欲しい」といった、市民からの苦情にも近い声が多くよせられたといいます。別の被災地では、実際にこうした声を意識して、工場の操業を遅らせて社員を避難所へボランティアとして派遣したり、トラックを救援物資の輸送用に提供したという製造業の工場もありました。

事業の継続計画から地域の継続計画へ、すでに策定済みのBCPももう一度見直してみましょう。事業所のある地域の人口構成や災害想定、避難所の場所や施設、防災計画に書かれている手順などをよく調べ、災害時にどんな人がどんなことで困難に直面するのか、予測を立てましょう。災害時にどの企業がどのような行動を取るのか、地域や社会はよく見ています。目先の事業再開にとらわれるあまり、従業員や顧客が暮らす地域から信頼を失っては、本当の意味での事業の継続は難しくなります。

企業等と協定を締結している市区町村の割合<出典4>

 

【災害を通して考える人権】

これまでの災害での経験から、災害時に発生する課題や災害対応力の縮減の様子や、企業に求められる役割の変化をお伝えしてきました。災害と人権の観点から、これからの企業への期待について、3つにまとめてみました。

まず1つめは、ダイバーシティの推進です。日ごろから人のちがいに配慮のある職場慣行や地域づくりの取り組みを進めなければ、災害時にも誰がどのようなことで困難に直面するのか、想像できません。男性も女性も働きやすい職場づくりや障がい者の受け入れや、顧客の多様性に配慮のある商品やサービスの開発を通じ、従業員の多様性に配慮のある安全確保や避難誘導の課題をみつけ、商品やサービスの災害時における使用、提供、供給での問題点を把握しましょう。

2つめは、地域貢献活動の促進です。子育て支援や障がい者の就労、高齢者のいきがいづくりなど、地域にはさまざまな活動を行うボランティア団体やNPOがあるはずです。そうした活動に寄付したり、社員がボランティアとして参加する、あるいは自社の施設を活用してもらうことで、地域課題の現状を知るとともに、災害時にはパートナーとして連携しながら、地域全体の支援をともに進めていくきっかけをつくることができます。地域で課題解決に取り組む団体とつながりを持つことで、日常のダイバーシティの推進でも力を借りることも期待できます。

そして3つめは、具体的で実践的な訓練の実施です。立派な計画も、実際に機能しなければ絵に描いた餅です。災害の種類は発生する時間帯など、毎年想定を変え、課題を発見し計画を改善しましょう。事業所のなかだけでなく、従業員の家族や近隣の住民、地域のNPOや行政などと連携し、実践的な訓練をめざしましょう。できれば1泊して避難生活を体験し、必要な備品やルールの確認を進めたいところです。

ダイバーシティ研究所では東日本大震災以降、一人ひとりが大切にされる災害時対応をめざして、避難生活者への支援や仮設住宅でのコミュニティ形成、復興まちづくりへの市民参加に関わる支援を行っています。熊本地震でも現地にスタッフを派遣し、直後から企業や行政とも連携しながら、被災された方々の支援にあたってきました。最も危機的な状況でもすべての人の人権が守られる社会をつくることができれば、日常も誰もが安心して暮らせる社会を実現することができます。災害への備えを万全にし、従業員や地域から信頼される企業をめざしてください。

(出典4)消防庁「消防防災・震災対策現況調査」をもとに内閣府作成

田村太郎(一般財団法人 ダイバーシティ研究所 代表理事)

■ダイバーシティ研究所 団体紹介

人の多様性に配慮のある組織や地域づくりをめざし、2007年に設立。企業や自治体の取り組みに関する調査研究や研修、コミュニティビジネスへの支援などを行っています。

(2017/04/20)