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〔見た目問題の今〕ありのままの姿でも安心して暮らせる社会を(2) |人権情報

今回は、2019年7月23日にアルビノ・ドーナツの会 代表の『薮本 舞さん』をお招きしてご講演いただいた内容の、後編です。

自分の言葉で自分を説明したい

私は、高校では自分でちゃんと友達を作りたいと思っていました。そのために環境を変えて、自分から自分の言葉で自分を説明したいと強く思い、地元の子どもが行かない片道1時間半かかる高校に進学しました。
そして、それまでの私には考えられないくらい友達の数が増えて、自分の社会が広がりました。一人理解者が現れたら、その人が友達を連れてきてくれて、どんどん友達が広がりました。

自分の努力ではどうにもならないこと

ただ、高校生活すべてが順風満帆だったわけではありません。私は車の運転免許を取得できません。視力的に難しいのです。
自分の努力ではどうにもならないことって人生にはあるんだと初めて感じて、とてもしんどかったです。

それからアルバイト先の面接で「お客様にあなたの特に髪の毛の色、そういった症状をいちいち説明できないでしょう」と落とされたこともあります。
先生や家族に心配をかけたくないという理由から、自分から心を閉ざすということがありました。専門家を頼ればよかったと今なら思いますが、それは大人の発想で、子ども自身がそこに至るのは、結構大変かもしれません。スクールカウンセラーがいたのか、子どもの私ではわからないです。
そして友達にも話せませんでした。本音で話せる友達が少なくて、ここがしんどいって伝えるのが、プライドもあって難しかったのです。そして食事ができなくなって、入院するところまで追い詰められました。

過ごしやすかった芸術大学

入院中に考えたのですが、発想を逆転して、アルバイトや運転免許など大勢の人ができることが自分にできないのであれば、何か自分にしかできないオリジナリティーなところで生きていきたいと考えて、芸術大学に進学しました。
芸術大学は私の人生で一番過ごしやすかったところです。芸術大学って、個性があることがそもそもの前提なんです。
いかにして自分の個性や自分の思ったことを作品に反映させるかに魅力がある人たちなので、髪の毛が白いことはあまり珍しくないわけです。みんなもそれなりに個性が強いので、ものすごくフラットでした。

同じ境遇の人と出会いたい


ただ一歩社会に出た時は、アルバイトも就職活動も難しく、再び壁にぶち当たりました。
就職は大学の就職支援部署から「障害があるので希望するような仕事には就けないんじゃないかな」と言われて、実際アルバイトができなかったので、希望する仕事に就けないことに納得して人生を送るしかないのかなと、ものすごく悩みました。
この時はいろいろな大人の人に相談しましたが、納得できるようなヒントはなかなか得られませんでした。
納得できないけど、このまま諦めるしかないのか。他のアルビノの人は自分の人生に納得してるのだろうか。会いたいと思いました。

アルビノ・ドーナツの会の結成へ

大学を卒業した2006年は、徐々にインターネットが普及していたこともあって、ネットでアルビノの人の気持ちを聞くこともできましたが、実際に会っていないので、あまり実感がありませんでした。
でもアルビノの人が集まる団体は当時の日本にはなくて、どこをどう伝っていったらアルビノの人に会えるだろうかと模索しました。
2年か3年越しに初めて会えたのは、私と年齢が近くて性別が一緒、背格好も本当によく似ている方でした。
当時、日本にはアルビノの人たちのセルフヘルプグループがなかったので、私と彼女の個人的な友達の関係で終わらせるのではなくサークルのような形にして、私と同じようなしんどさを抱えている人の会として立ち上げることができないかと提案したら、彼女も「いいね」と言ってくれて、また彼女の大学の先輩でアルビノの人も連れて来てくれて、2007年2月にアルビノ・ドーナツの会を立ち上げました。

さまざまな当事者団体とつながって

2009年頃、東京のマイフェイス・マイスタイルという、見た目問題を定義して発信したNPO法人が「薮本さんの活動ってアルビノで活動してるけど、切り口として見た目問題という共通項は私たちと共通の課題ではないですか」と連絡をくださったので、事務所に遊びに行ったんです。
するとアルビノの人もいるけど、脱毛症や眼瞼下垂(がんけんかすい)などの症状の人もいて、私たちが抱えるしんどさって症状に関係なく見た目問題として社会的障壁にぶつかることがありますよねというお話になりました。
アルビノだけで活動するのも大事だけれど、見た目問題として他の当事者団体と協力してイベントできないだろうかということで、マイフェイス・マイスタイルの呼びかけがきっかけで、いろんな団体とつながって、例えば、眼瞼下垂、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)、最近ではトリーチャーコリンズ症候群など、いろんな見た目の症状のある人たちと一緒にイベントや啓発活動をしています。
見た目問題は今まで社会問題化せず、困難や社会的障壁にぶつかっても個人の問題とされたり、命に別状はないと軽く見られていましたが、そうではないんだ、やっぱりしんどさはしんどさとしてあるんだと社会に発信していこうと、苦しいながらも自分の思いを伝え始めた当事者たちと出会って、啓発活動を強化している状況です。

バリバラのファッションショーにて

アルビノ・ドーナツの会の新たな活動

ドーナツの会の新たな取り組みとして、八尾市人権協会内に見た目問題相談センターを開設させていただいています。
国内で初めての見た目問題に関する相談機関で、相談者の症状や状況によって、当事者団体に繋いでいきます。

次に「アルビノ甲子園」というのをやっています。
交流会をすると小さい子どもさんの参加が非常に多いんですが、中学以上になると子どもがメインの交流会ってなかなか来づらくなるんですね。そういった年代の人が一緒に集えるような企画をしようと、大阪府人権協会との共同で立ち上げた企画です。
親からちょっと離れる時期だけれど、アルバイトや運転免許の問題に直面する年代なので、同年代の繋がりを作ろうという狙いがあります。そして隠れた声を聞きたいということもあります。

また2016年にNHKのバリバラという番組でファッションショーに出演させていただきました。
この時、担当デザイナーの小田桐智絵さんが、アルビノの白さがより際立つようなイメージでファッションショーを考えてくれて、メイクも眉毛や睫毛の白さを生かしたものを提案してくださいました。
私たちは白いということにネガティブな感情を持っていますが、これをきっかけに自分の白さをより際立たせることも魅力的なのだと気づくことができました。

伝えていきたいこと

アルビノや見た目問題で壁にぶつかるというネガティブな要素ももちろん伝えていく必要がありますが、それだけだと、これから大人になる当事者の人達に、自分にはネガティブな人生しか待っていないのかと不安を駆りたててしまうこともあるので、ポジティブなこともあるんだよとしっかりと発信していきたいと思っています。

アルビノであっても、見た目問題の当事者であっても、さまざまな人たちがともに自然に暮らしていける社会になればいいなと思って活動しています。孤立して悩む人を減らすために、これからも活動を続けたいと思っています。

(2020/03/26)