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ヘアドネーションってご存知ですか?『つな髪~ウィッグの贈り物で広がる輪~』 |人権情報

昨今、日本人の2人に1人はがんになるといわれており、誰にとっても身近な病気となりました。また医学の進歩で不治の病から治りうる病気へと変化してきました。
がん治療では手術や放射線治療、抗がん剤治療などが行われます。抗がん剤治療では副作用で髪が抜けてしまう場合があり、治療での脱毛に悩みを持つ人が多くいらっしゃいます。
今回は、抗がん剤治療に加え、脱毛症や抜毛症などにより髪に悩みを持つ高校生以下の子どもたちに対して、ヘアドネーション(髪の寄付)を集めて医療用ウィッグを作製し、無償で提供する活動「つな髪(つながみ)プロジェクト」を運営しておられる株式会社グローウィングをお伺いしました。
取材にご協力いただきましたのは、株式会社グローウィングの代表取締役 堀江貴嘉さんと広報課スタッフのみなさんです。

株式会社グローウィング本社

事業とつな髪プロジェクトの立ち上げ

株式会社グローウィングは2008年に設立、「女性用の医療用ウィッグの製造・販売・メンテナンス」を主事業として営業してこられました。誰もが安心・安全に使用できる医療用ウィッグの開発に力を注いでおり、お客様の声を活かした商品を販売しておられます。
2016年6月から社会貢献活動の一環としてつな髪プロジェクトをスタートし、「髪で繋がる社会貢献活動」と「医療用ウィッグの認知」を目的として活動してこられました。
つな髪プロジェクトを通じて、医療用ウィッグの重要性と安心して使用できる品質のあり方を社会に広め、医療用ウィッグを必要とされる方への理解とともに、支え合うあたたかい社会づくりを目指しておられます。
「ウィッグを必要とする子どもたちと誰かのために役立ちたい人をヘアドネーションによって繋げたい。そして『髪』を寄付したひとりひとりのアクションが次の人へと『繋がり』、活動の輪が広がってほしい」という願いと想いを語っていただきました。

ヘアドネーションからウィッグの提供

31センチ以上の髪で     作製するウィッグ

つな髪プロジェクトを通じ寄付を募る
髪の長さは15センチから寄付が可能です。ヘアドネーションは通常、31センチ以上の髪の長さが必要とされていましたが、「つな髪」では15センチ以上から受付をしておられます。15センチの髪の毛は、髪の毛付インナーキャップウィッグや部分ウィッグの作製に活用しておられます。
寄付は年齢や性別、国籍は問わず、ヘアカラーをしている髪でも可能です。しかしながら、子供たちへ髪本来の質感を残したナチュラルな髪でウィッグを提供したいという想いから、ブリーチした髪やパーマを当てた髪(ストレートパーマも含む)など、受付ができない髪の条件も設定されていました。
1つのウィッグを作製するためには、多くの髪の毛が必要となります。15センチ以上から作製する髪の毛付インナーキャップウィッグは約15名分の1キログラム。31センチ以上で作製するフルウィッグは約30名分の3キログラムの髪を必要とします。
寄付は、「つな髪」ホームページの登録フォームからエントリー後に、寄付の髪を送付してもらうことになっています。活動開始後わずか2年余りにも関わらず、毎日50~80人もの方から提供があるそうです。

寄付の髪をウィッグ提携工場へ
寄付によって集められた髪は、つな髪事務局より提携している中国(山東省)のウィッグ工場に送られます。ここで、洗浄・殺菌したのちに髪の長さやキューティクルの方向を揃える作業を経て、専門職の作り手によりすべて手作業で植毛が行われます。

医療用ウィッグに生まれ変わる
子どもたちに無償提供を行っているウィッグは、ワンステップ(グローウィングの医療用ウィッグサロン)で通常販売している商品と同じ加工技術で作製しています。
つな髪プロジェクトで無償提供を行っているウィッグは4種類あります。ウィッグを付けたままプールや運動も可能なものや、敏感な肌にも使用できるウィッグのベース生地がオーガニックコットンのものなど、ひとりひとりの髪の悩みに合わせて使用できるように配慮されています。
オーガニックコットンをベースに使用した医療用ウィッグは、業界で初めてグローウィングが開発されたとのことでした。
一般的なウィッグには、ベース素材(地肌に直接触れる部分)にナイロンなどの「化学繊維」が使用されています。主に耐久性や髪を植毛しやすいなどの理由からです。

グローウィングのウィッグ「ファイブスター」は5つの快適性がポイント

しかし、抗がん剤治療や脱毛症などで髪が抜け、頭皮がデリケートになってしまった方やアトピー性皮膚炎、敏感肌の方には化学繊維の刺激は強く、炎症を起こすなど症状を悪化させてしまう場合があります。ウィッグを使用できない方や、不快感を我慢しながら着用しておられる方も少なくありません。お客様の声を活かし、グローウィングの「肌に直接触れるのだから、毎日心地よく、肌に負担がかからない天然素材で作製するウィッグをお届けしたい」という想いからオーガニックコットンの医療用ウィッグが生まれました。

医療用ウィッグを必要とする子どもたちに提供
できあがったウィッグは、つな髪ホームページで申し込みを受け付けて、医療用ウィッグを必要とする子どもたちにプレゼントされます。対象となるのは、抗がん剤治療や脱毛症・抜毛症など、髪に悩みを持つ高校生以下の子どもたちです。
頭蓋骨の形や大きさは18歳までは変化するといわれており、成長に合わせてウィッグの買い替えが必要になります。他の子どもたちと同じように生活できるように、精神的・身体的ケアに少しでも役に立ちたいとの一心で活動をおこなっておられる堀江社長の想いが取材の中で伝わってきました。

代表取締役 堀江貴嘉さん

Q&A

今回取り上げたヘアドネーション関連の情報については、著名人で古くは柴咲コウさん、最近では故 小林麻央さんが注目されたことでご存じの方もいらっしゃったのではないでしょうか。ただ、取材を通じてもっとみなさんに知っていただきたい、深くて重いあらゆる人権問題に通じる共通項があるとの想いが募ってきました。私たちが素朴に思う疑問について質問形式でお伺いしてお答えいただきました。

つな髪プロジェクトを行っている理由と、始めたきっかけは?
第1には、医療用ウィッグを扱う会社だから、と明快なお答えをいただきました。「髪で繋がる社会貢献活動」と「医療用ウィッグの認知」を目的としてつな髪プロジェクトを立ち上げられ、髪を寄付されたひとりひとりのアクションが次の人へと繋がり、活動の輪が広がってほしいとの願いがあります。

つな髪プロジェクトに対する数々の賞状

ヘアドネーション活動をしておられる他団体のようにNPO法人にならないのかとか、なぜ寄付金を集めないのかなどとよく聞かれるそうです。答えは単純明快に「NPO法人として独立した活動をする目的や理由がないから。企業の取り組みとして行っているので寄付金も募りません」とのこと、あくまで企業活動の一環でCSR活動・社会貢献活動として行っているとのことでした。
ちなみに、本プロジェクトの事務局は僅か2名のスタッフで運営しておられるとのことです。提供者の情報データ入力から髪の仕分け、認定証の発行、ホームページの運営管理から提携美容室のサポートに至るまで、ありとあらゆることまでこなされ、頭が下がる思いでした。

「医療用ウィッグの日(10月19日)はグローウィングが申請して認可を受けられましたが、その意図や思い立ったきっかけは?
この日は、医療用ウィッグの「品質」と「認知度」向上を呼びかけ、安全・安心な医療用ウィッグを普及させることが目的でした。加えて、品質や素材を比較することなしに「医療用」という言葉だけでウィッグが選ばれていることに警鐘を鳴らし、品質向上や品質の均一化を目的とした啓発活動の一環としています。
医療用ウィッグの日にイベントも開催され、同じ悩みを持つ子どもたちの交流の場としても定着しつつあります。
ちなみに、10月19日を医療用ウィッグの日とした由来は、病院のマークが漢字の「十」に似ているので数字に置き換えて10月に。プラス「ウィッグ」の語呂合わせで19日になりました。

つな髪プロジェクトをしていて大変なことは?また、やっていて良かったとどのような時に実感されますか?
「大変と思ったことはありません」と迷いなく即答いただきました。やっていて良かったと思うのは「ウィッグを着けた子どもたちの喜ぶ顔を見る時」とのこと。取材に立ち会ったみなの目にその光景が浮かびました。

子ども用ウィッグの紹介雑誌

不要になった方からの回収やリサイクルといった考えは成り立ちますか?
髪やウィッグ本体は使用すると日に日に劣化してしまうため、使用したウィッグをウィッグの原料として再利用することは難しいとのことでした。

ヘアドネーションに通常は31センチ以上の髪の毛が必要なのはなぜですか?
ウィッグを作製する時、髪の毛は折り返して植毛を行います。31センチの髪を使用した場合でも、できあがったウィッグの髪の長さは約15センチから20センチになるため、一般的に31センチ以上の髪の長さが必要といわれています。

髪を寄付された方々に交付される認定証

プロジェクト始動から約2年半でヘアドネーションの寄付者3万人を突破し、プレゼントウィッグの提供数が約300人と、年間100名もの子どもたちに夢と希望を与え続けておられます。
プロジェクト開始当初に比べ、より多くの人から髪の毛の寄付が届くようになり認知度が高まってきました。背景には、今回取材に快く応じてくださったグローウィングのみなさんをはじめとして、ヘアドネーション関連に携わるありとあらゆる関係者の啓発活動抜きには語れません。

ヘアドネーションに参加された方は、それぞれに熱い想いを抱いておられます。本件に限らす、マイノリティの人権が尊重されるように少しでもお役に立ちたいと老若男女を問わず参加される志は本当に尊いものです。医療用ウィッグを受け取られた子どもたちに「自然で綺麗な艶のある髪」を提供して、心に響かぬはずはありません。本件に限らず、私たちにできることがもっと他にもあるのではないかと大いに考えさせられた今回の取材でした。

プレゼントウィッグに対する子どもたちの礼状

(2019年2月取材)                                                          ご注意                                                                2019年11月21日より、15センチ以上31センチ未満の髪の毛は募集を一時休止されていますので、寄付をお考えの際は「つな髪公式ホームページ」などでご確認をお願いします

(2020/03/02)