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わたしが歩んできた道と人権 「ビッグイシューの挑戦」 |人権情報


(有)ビッグイシュー日本 佐野 章二さん

 皆さんは、街角で雑誌を片手に立っている方を見かけたことがありますか。あるいは、その雑誌を購入したことがありますか。
 今回は、その雑誌「THE BIG ISSUE」を販売することでホームレスの自立支援を実践する活動をご紹介します。

「ビッグイシューの仕組みについて教えていただけますか。」

 ビッグイシュー販売と3つのステップ私たちはホームレスの自立支援を目的として、有限会社を7年前につくり、雑誌(ビッグイシュー)を発行しています。
 この雑誌は書店では販売されていません。I冊300円ですが、ホームレスの人からしか買えないというふうに販売を独占していただき、300円のうち160円をホームレスの方に差し上げる。そういう仕組みでホームレスの方の仕事をつくっています。
 彼らはお金がありませんから、最初の1回だけ、10冊を無料で差し上げます。その売り上げの3千円が彼らの元手となります。以降は、その元手からI冊140円で仕入れていただいて、300円で売っていただくと、160円が彼らの収入になる。それを積み重ねていって貯金をしていくという、だいたい3つくらいのステップを考えています。
 平均すると1人が1日20~25冊を売ります。
 そうすると、だいたい3,200円~4,000円くらい収益を上げることができます。日当としては非常に少ない金額だと私たちも思っていますが、現金がなくてコンビニの賞味期限切れの弁当しか食べるものがないという状況を考えると、3,600円の現金収入は、大きな意味があります。
 たとえば大阪の西成では2畳間で1泊600円から宿泊できます。3畳だと千円で、あと2,600円で3食なんとか食べられる。
 つまり3,600円で「脱路上」ができる自立の第1ステップで、彼らにとっての最初の収入なんですね。しかし、簡単ではありません。
 1日7時間立つと、だいたい1時間に3冊前後売れる、それで1日に平均20~24冊、これで「脱路上」がしていただけるという勘定です。
 第2ステップは、街角に立っているとおなじみさんがつくんですね。そうするとプラス10冊で、一日30~35冊売れると、4,800円から5,000円を超えるくらいの収入が得られるわけです。そこで増収分を「頼むから1日千円貯金してくれ」と言います。すると月で2~3万円。7~8ヵ月経つと共同炊事共同トイレのアパートの礼金・敷金くらいになり、ようやくアパートを借りて暮らすことができるようになります。これが第2ステップです。これは言い換えると、住所を持つということです。住所を持たないと一人前に扱われません。
 第3ステップでは、住所があるとハローワークにも行けるし、自分で職探しにも行ける。
 日本のホームレスの平均年齢は56歳で高齢ですから、なかなか仕事がない。路上からの出口の仕事をどうつくるのかということが、これからの我われの課題になるのかなと思っています。ビッグイシューの仕組みを大まかに申し上げますと、こういうことです。

「100%失敗する」と言われたビッグイシューを、日本社会に根づかせることができた7年の軌跡を紹介していただけますか。

 7年間で結果はどうだということですが、そうですね、1,100人くらい登録をしましたね。
 現在、全国15都道府県、札幌から鹿児島まで150人くらいの人が販売をしています。
 そして、いわゆる卒業していった人は140人くらいです。あわせると300人弱、それが多いか少ないかということですが、私たちは決して多いとは思っていません。もっと多くの方が卒業していけるように、雑誌をつくっている有限会社とは別に、今から4年前に、「ビッグイシユー基金」というNPO法人をつくりまして、そこで仕事探しやアルコール依存症の方の立ち直りのお手伝いをしています。有限会社とNPOを両輪でやっていこうというようなことでやっています。

ホームレス問題へ取り組むキッカケは

 私は大阪の堺に住んでいまして、通勤電車を天王寺あたりで乗り換えますと、必ずホームレスの人がいます。髪はコテコテで臭いをプンプンさせている人に出会うわけですね。
 その時に、じろっと見るのは失礼だし、無視するのも失礼だし、結局見て見ぬふりをしているんですね。私は、見て見ぬふりは全然悪いことだと思っていません。これだけ過密な都市に住んでいる人間にとっては、むしろマナーだと思います。1997年~98年に日本型の金融恐慌がありましたね。山一証券が廃業し、北海道拓殖銀行が倒産をする、というようなことがありました。そのようなときにホームレスが増え、ブルーシートが増える。つまり、ホームレス問題が可視化してきたのですね。
 ホームレス問題の解決に携わらなくてはいけないプレーヤーは3者いると思うんですね。
 1つは行政。2002年7月に「ホームレス自立に関する特別措置法」という法律ができました。目的のところで「ホームレス問題の解決は、国行政の責務である」ということが書かれています。最後の部分には「民間と連携して」と書いてあります。
 じやあ、その法律ができてホームレス問題の解決がすごく進展したかと言うと、そうではありませんね。しかし法律で責任を認めることに意義があります。
 プレーヤーの2番目は、企業ですよね。日雇い労働者だった人が今ホームレスになっているケースが圧倒的です。
 3番目は、責任はないけれども、隣にいる人を放っておけなくて、炊き出しだとか夜回りだとかで支援している市民活動団体。
 この3者がすでにあるわけですから、私がしゃしゃり出てホームレス問題に関わる仕事をしようとは全然思っていませんでした。しかし、ホームレスが急激に増えてくるという状況下で、自分がたとえばコンサルタントとして行政からホームレス問題解決のための処方箋をつくってくれと言われたらどうするだろう、とあるときふと思ったんですね。
 ホームレス問題は福祉の問題、と役所はそう思っている。だから福祉援護課というところがホームレスの担当ですね。それから、企業がリストラをしてホームレスが増えていくという経緯があるので、企業的観点からいうと、雇用と失業の問題。それから、社会学的にいうと、格差社会だとか底辺社会という問題。そういう研究は断片的にあって、その一つ一つは正しい。
 ただ、誰も処方箋が書けない。ですから、僕がこの問題を考えようと思ったときに、たまたま地域問題とか都市問題とかをやっていましたから、「都市問題としてのホームレス」というふうに捉えたらどうだろうかと、そんなふうに思ったんですね。
 都市問題として、たとえば街をきれいにするとか、あるいは、都市とか地域の循環の中でリサイクルの仕事をホームレスの人たちにしてもらうとか、そのような形で仕事づくりにつながっていくかもしれないというふうなことを考えました。

なぜ人はホームレスになるのですか、またビッグイシューの今後についてお聞かせください。

 7年やってきて、ビッグイシューは軌道に乗ったとはまだまだ言えないと思っています。が、なんとか、続けていける手がかりができた、というふうには思っています。何にしても、ビッグイシュー誌を、本当に市民がホームレスから買ってくれるのかという偏見・差別の問題もありました。それは同和問題なんかともつながる問題なんです。
 次に、我われの基金ではどういうプログラムをやっているかということをお話しする前に一つ言っておきたいのは、人がなぜホームレスになるかということです。誰もなりたいと思ってなっているわけじゃないです。日本の場合は、失業して仕事がなくなるということが一つあります。収入がなくなると家賃が払えなくなり、安定した住居がなくなる。しかし、この二つだけではホームレスにならない。仕事がなくなって家がなくなったときに、誰か相談できる相手がいれば、すぐにはホームレスにならないです。
 身近で頼れる人や絆がいなくなったときにホームレスになる。つまり、独りぼっちになったときにホームレスになるということです。
 独りぼっちになったときに、人は何を失うかというと、希望を失うんです。ホープレスからホームレスへ、ということです。独りぼっちになってホームレスになったときに、当然寂しいですから、ただお金がないだけでは済まずに、ちょっとお金が入ったらお酒を飲んだり、ギャンブルに走ったりする。なかなか自立とか格好いいことを言えるような状況じゃない。我われがすると”たしなみ”で済みますが、追い詰められた人たちがやると”依存症”になりがちです。その問題を克服しないと自立が語れない、自立が彼自身の問題にならない、そういう状況に追い込まれてしまいます。ですから、「貯金しいや」と言い、3つのステップを歩んでいただく。1年経ったらアパートを借りてもらわなあかんわけです。だけど、やっぱり2年も3年も売っているという状況もある。そこを直さないと本当の自立は考えられないから、「ビッグイシユー基金」として会社とは別に立ち上げて、そこでそういう対策をしています。

2010年10月から大阪市交通局とコラボで西梅田地下に売店が開店
バックナンバーの販売だけでなく、道案内のパブリックスペースにもなっている

(2013/01/22)