トピックス

企業活動における人権のグローバル・ルール、「人権デュー・ディリジェンス」とは? (その1) |人権情報

 今回から3回シリーズで、企業活動と人権の関係についてのグローバル・ルールである「人権デュー・ディリジェンス」について紹介します。第1回は人権デュー・ディリジェンスとは何か、第2回と第3回で人権デュー・ディリジェンスに取り組む際に見過ごされがちなキー・ポイントを考えていきたいと思います。

1.人権デュー・ディリジェンスとは?
 企業の社会的責任(CSR)では、「ステークホルダー(利害関係者)」や「バリューチェーン(資材調達からリサイクル・リユース・リデュースまで商品やサービスの価値を生みだす流れ全体)」など、経済のグローバル化を反映してか、英語の概念をそのままカタカナにした用語が多々登場します。その中に、最近よく耳にする用語に「デュー・ディリジェンス」があります。
 「デュー・ディリジェンス」とは元来「相当の注意(または適切な注意)」という意味を持つ言葉です。企業経営の文脈でよく用いられてきたこの言葉が、CSRの文脈で登場したのは、国連で2005年から検討が始まり2011年に承認された「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)」であり、関連してISO26000やOECD多国籍企業行動指針といったCSRの国際的なガイドラインのなかに導入されました。「人権」とセットで使われることも多く、「人権デュー・ディリジェンス」とは「企業が人権に対して適切な注意をはらうこと」を意味します。具体的にはどういう内容を指すのでしょうか。
 例えば、人権のなかでも「健康への権利」を取り上げてみましょう。企業でのメンタルヘルスや長時間労働者の健康管理の取り組みは労働者の健康への権利に、また公害による健康被害は地域住民の健康への権利に関わります。消費者の健康への権利としては、食品や製品使用の安全性などの課題があります。このように考えてみると、人事や人権啓発はもちろん、調達、製造・加工、販売・営業、広報、そして経営企画など、部門にかかわらず経営そのものが人権課題と直接関わっていることがわかります。
 従って、人権に「適切な注意」を払いながら事業に取り組み、取引先を含めた全社的な体制や仕組みづくりが必要になります。そこで、指導原則はつぎのようなヒントを示しています。

①人権に関する基本方針を定める
 基本方針には、その策定時に経営トップのコミットを得るとともに、専門家の意見やステークホルダーの期待を反映します。加えて、取引先との契約や調達基準、人事評価に組み込むなど、基本方針を事業や工場・営業所等現場の方針に反映して、実践的に活用します。基本方針には、CSR(基本)方針、行動規範や行動憲章、倫理綱領などと呼ばれている企業の内部規則が含まれます。この基本方針に、差別の禁止や職場におけるハラスメントといった労働に関する項目に加え、事業展開上の人権に関する項目、例えば、先住民族の権利の尊重や児童労働・強制労働の禁止、移住労働者の人権尊重などを規定する事例もみられます。また人権に関する基本方針を策定するにあたり、自社の経営上の人権課題を特定するため、ステークホルダーやNGO、専門家を招き、人権に関する意見交換の場を設定する企業事例も増えてきました。

②人権を尊重するための4つの人権デュー・ディリジェンスのプロセスを確立する
●自社の事業が人権に与える影響をアセスメントする
バリューチェーンや進出先で、自社の事業が人権にどのような影響を与えるのか、専門家やステークホルダーと協議しながら、アセスメントを実施します。日常の業務は定期的に、また新しい事業を始める場合や事業を大きく変更する場合は事前にアセスメントを行います。
●企業内部でアセスメントの結果を活かす仕組みをつくる
アセスメントに関する責任者・担当者や担当部門を設置するとともに、アセスメントの結果を社内プロセス(事業決定や予算策定、監査のプロセスなど)に活かす仕組みをつくります。前述の通り、経営そのものが人権と関わる問題ですので、責任者には経営トップ・役員などがつくことが期待されます。
●自社の取り組みを追跡して評価する
社内外のステークホルダーからフィードバックを得ながら、自社の人権に関する取り組みを評価します。評価の際には、目標に対してどこまで達成できたのか、今年度の課題は何か、次年度の目標は何か、などを明らかにします。このような評価を、経営トップに対する報告など社内の制度に組み込みます。
●外部へ取り組みを公表・報告する
自社のアセスメントを反映するとともに、読み手がアクセスしやすいような公表・報告方法とその頻度を確保します。加えて、読み手が企業の取り組みを評価できるよう、十分な情報を提供します。

③人権侵害に対する苦情・相談対応の仕組み
 人権に配慮して事業に取り組んだとしても、ハラスメントや労働災害の発生、商品使用中の事故など、被害の生じる可能性をゼロにすることは極めて難しいことです。そこで、苦情や被害についての相談に対し、迅速かつ適切に対応する部門や手続きを設けます。日本では、同和問題をはじめさまざまな人権問題への対応として、企業の多くが人権啓発・教育や相談の窓口となる担当者を設けてきました。こうした社内の窓口はもちろんですが、一歩進んで弁護士や専門家などと連携して第三者窓口を設け、ステークホルダー全員が安心して利用できる苦情・相談対応の仕組みづくりをめざします。

                                                       菅原絵美(大阪経済法科大学助教)

(2014/12/10)