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2022年の自殺者数は2万1881人と前年比874人増でした。過去5年の月別自殺者数をみると、2022年は5月、6月、9月が直近5年の同月比較で最多でした。5月に発生した著名男性タレントの自殺報道後、約2~3週間に渡って自殺者数が増加しており、ウェルテル効果による影響が考えられます。
「ウェルテル効果」とは、マスメディアの自殺報道に影響されて、一般人の自殺が増える事象のことで社会学者のディビッド・フィリップスがその存在を広めました。「ウェルテル効果」という言葉はゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』に由来して命名されました。作品には、青年ウェルテルが婚約者のいるシャルロッテに恋をし、叶わぬ思いに絶望して自殺するまでが描かれています。1774年の出版当時、ヨーロッパでベストセラーになり、主人公ウェルテルを真似て自殺者が急増するほどの社会現象を巻き起こしました。このため同書は“精神的インフルエンザの病原体”とまで呼ばれるようになり、ヨーロッパの一部の国では刊行がストップされました。
一方、対極的な効果も存在します。マスメディアの自殺報道が自殺者を抑制する効果は、モーツァルトのオペラ『魔笛』の登場人物から名前を取って「パパゲーノ効果」といわれています。愉快な鳥刺し男、パパゲーノは恋人を連れ去られ自殺を考えますが、三人の童子の助けで思いとどまり、最後の瞬間に生きることの喜びを見出し、死ぬという考えを捨て去ります。
我が国では厚生労働省が、WHO策定の『自殺に関する責任ある報道:すぐわかる手引(クイック・レファレンス・ガイド)』を日本語で公開し、メディア関係者が自殺関連報道する際の注意喚起をしています。
今後、長期化したコロナ禍後の影響として、失業者の増加や生活困窮、人と接する機会が少なくなる中でのDVや育児・介護疲れ、いじめや孤立など、追い込まれた末の自殺が増加することが懸念されています。それだけに今、ウェルテル効果を生み出さない慎重な報道を求めると同時に、パパゲーノ効果をどのように引き出していくかの知恵と工夫が求められています。家族はもとより、地域、職場など、身の回りの人々への気配り、心配り、話しかけてみること、話を聴いてあげること、そのようなことがパパゲーノ効果を高めることにつながるのかもしれません。
(2024/11/08)