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~生物の生き残り戦略にヒントを得て人類の未来を築く~
バイオミメティクス(Biomimetics)とは、生物の多様性に学ぶ持続可能性に向けたパラダイム変換と技術革新を意味しています。Bioは生物や生命にかかわる接頭語、mimetics(複数形)は模倣を意味し、学術的には生物模倣学などと訳されます。何十億年にもわたる地球の歴史の中で、生物が進化の過程で環境に適応するために獲得してきた機能や形態に倣おうという思想は「ものづくり」に留まらず、持続可能な社会をめざすSDGsへの貢献のためにも注目されています。
生物に学ぶというバイオミメティクスの発想は非常に古く、鳥の飛翔メカニズムの考察をもとに飛行機械を設計したレオナルド・ダ・ヴィンチまで遡ることができます。身近なところでは、日本で「マジックテープ」という商標名で広く知られる「面ファスナー」は、オナモミという植物の実が動物に付着して落ちないことをヒントに開発された製品です。
自然からインスピレーションを得る発明家は古くから存在していましたが、1950年代後半にアメリカの神経生理学者、オットー・シュミット博士により「バイオミメティクス」という言葉がつくられ、生物を模倣する科学が提唱されるようになり、今や私たちの身近な製品にも数多く利用されています。海綿を模倣した洗浄スポンジ、絹糸を真似たナイロンなどの合成繊維、新幹線の静音性と騒音抑制は、鳥の中で最も静かに飛ぶフクロウの翼の構造と、エサを求めて水に入るときにほとんど水しぶきをあげないカワセミのくちばしの構造に学んでいます。また今世紀に入り世界的なナノテクノロジー(物質をナノメートルの単位で制御する技術)の展開と相まって新たな潮流を迎えました。電子顕微鏡によりヤモリの足裏やハスの葉の表面構造が解明され、粘着剤を使わない吸着材料や超撥水効果を利用した塗料や衣類などが開発され、その多くは生物学とナノテクノロジーの連携によってなされたものです。
企業の製品開発においてもさまざまな活用事例がありますが、最近ではシステムに適用するケースも見られるようになりました。魚群の動きを模倣した「効率的な運送を実現する自動群走行技術」や、アリ塚を模倣した「低コストで駆動するパッシブ型空調システム(放熱効果の仕組み)」などがあげられます。
昨今では海洋プラスチック問題や気候変動問題なども浮上し、欧州におけるバイオミメティクスは循環型経済(サーキュラーエコノミー)やバイオエコノミーといったキーワードとともに語られ、新しいジェネレーションに入っています。バイオミメティクスは生物を模倣し工業に応用しようという当初の発想から進歩し、生物多様性に学ぶことで人間の社会が持続可能になることを教えてくれる概念ともなりました。
(2026/10/01)