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「巳」と庶民信仰(3) |「巳」と庶民信仰

「蛇と宝」

江戸時代、1826年の6月25日のこと。
旧暦の6月ですから、真夏です。
江戸の小石川の坂道で多くの蛇が集まり折り重なるようになっており、まるで桶でも置いているようなありさまでした。
道行く人は、誰もが歩みを留めてその奇妙な様子を眺めていました。

すると、その近くの大名屋敷の侍、高橋百助の子で14歳になる千吉は、「こんな感じで蛇が重りたるなかには必ず宝あるそうだ」と言い、「いざ取らん」というなり袖をまくって右手を折り重なる蛇の群れのなかに入れました。

ヒジまで蛇の群れのなかに入れた千吉は、しばらくして銭を一つ手に入れました。
わずかに銭一文かと思いましたが、よくよく見れば「元祐通宝」と刻んであります。

これは11世紀に中国で発行されていた非常に珍しい古銭。
しばらくすると、あれほどいた蛇は散り散りになって姿を消したそうです。

これは『甲子夜話』という江戸時代の随筆に絵入りで載っている話です(巻87)。
「田舎にてはこれを蛇塚と云て、往々あることとぞ」と追記がありますが…。

蛇の群れなんて見かけたら気味が悪くなりますが、もしかしたら思いがけない「お宝」が隠されているかもしれません。

 

(2013/04/15)