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権利を考えるために(2) |よくわかる人権講座

働く権利から考える・その1

ある学校では「人権って何だろう?」という学習プログラムがあります。
このプログラムは、人権が抽象的で自分とは関わりがなく、差別を受けて困っている人の話だと思われていることを踏まえた上で、働く権利の問題と人権が発展してきた歴史を紹介する内容になっています。

働く権利に関わって、子どもたちに自らが当事者であるということを感じてもらうためにはどうしたらいいか、とても悩みます。

まず子どもたちに話しているのは、“『労働者』とは誰なのか”という定義に関わる問題です。
労働基準法には「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」とあります。
つまり、学校を卒業する子どもたちの将来の働き方の多くが、この『労働者』にあてはまることになります。

なぜこのような定義から話しているかといえば、労働基準法や最低賃金法、労働組合法、労働安全衛生法など、労働者を守るための法律が、この『労働者』に適用されているからです。
“これから話す法律で定められている働く権利は、自分自身の話なんだよ”ということを伝えたいわけです。

働く権利から考える・その2

働く権利に対する当事者性を考えるとき、もう一つ大事な視点は、権利の内容をできるだけ具体的に伝えることです。
そのため、生徒たちには初耳となる有給休暇、残業代の仕組み、解雇予告手当などの内容と、権利を守るためにどうしたら良いかを具体的に伝えています。

有給休暇は、非正規社員にも認められた権利であることを「知らない」と答えた労働者が半数を超えている、という記事が新聞に掲載されていました。
大人でさえこの結果ですから、子どもの場合だと誰も知らないという結果になってもおかしくはありません。
また、人権教育のテーマは個別の差別問題がほとんどですから、働く権利について具体的な内容を何一つ学ばないまま、
働いていくことになるわけです。つまり、知らない権利は当然行使することはできないということになります。

また、権利を守るための実例として紹介しているのは、飲食店でアルバイトとして働いていた女性が、メールひとつで「今月いっぱいの契約とする」と解雇されたことに対し、裁判を起こして、解雇予告手当に相当する額を飲食店の経営者が支払うという条件で和解したことを伝える新聞記事です。
提訴した女性は、インターネットをもとに訴状を一人で書き上げたそうです。

ここで思うのは、この女性は自らに起きた問題に対し、まさに当事者として行動したということの意味です。権利の内容を知らず、当事者としての自覚も実感できていなければ、このような行動はとても起こせません。

権利はまさに自らの問題です。
権利の問題に対する当事者性を身につけていくことは、自らを守り、さまざまな社会的な問題に対する視点も広げていくはずだと期待しています。

(2016/06/03)