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「働き方改革」の選択肢(3) |人権情報

テレワークの効果と留意点

テレワークに関しては、日本テレワーク協会のサイト(http://www.japan-telework.or.jp/)にたくさんの事例や仕組みづくりに必要なルールのひな型が満載されていますので、詳細はそちらに譲るとして、ここでは筆者の体験を中心に進めたいと思います。

【参考】テレワークのメリットとデメリット

<メリット>
いつでもどこでも仕事ができる。
✔ノイズに惑わされない静かな環境で勤務できる。
(経験者が挙げるメリット第1位は、実は「集中して仕事ができる」=会社では集中できない?)
✔生産性は大して上がらないが、生活の自由度は高まる。生活スタイルを柔軟にできる。
✔通勤時間分の時間が捻出される。
✔物理的に離れた空間にいるからこそお互いに丁寧にコミュニケーションをする。
✔オフィスの省スペース化につながる。
✔社内での人間関係のトラブルが減る(苦手な人に毎日会う必要がなくなる)。
✔場所にとらわれずに優秀な人材を確保できる。

<デメリット>
いつでもどこでも仕事ができてしまう。
✔リアルなコミュニケーションには完全に置き換えられない部分がある。空気感の共有が難しい。
✔何かあったときに臨場感はない。他者の意見が入りづらい。
✔従業員の勤怠管理がしにくい。労働時間にズレが生じる。働いている時間がわかりにくい。
サボるかどうか以上に働き過ぎを抑制することが難しい。
✔仕事とプライベートのメリハリがつきにくい。
✔場合によっては家族の理解が必要。
✔どれだけ働いているか成果を正しく評価しなければならない。
(リモートでなくとも当たり前ですが)
✔OJTは困難になる。

【参考】テレワークの注意点

■テレワークに向いている仕事、向いていない仕事を見極める。
■出社して対面で勤務をしていた頃とは違う面を意識する。
■テキストベースの情報共有を丁寧に行い存在感を意識する。
■対面機会をつくることを大切にする。

在宅勤務やサテライト型勤務といったテレワークに従事している人が周囲でも増えています。弊社でも3年前から、育児を理由とした在宅勤務者が、会社に出勤する部下2人を抱えながら、リーダーとして活躍してくれています。
しかしそれは「いい会社をつくろう」として制度を導入したのではなく、それまで頑張ってきてくれた社員が出産・育児という事実を前に「辞めたくないけれど、育児に向き合いたい」という二律背反で悩んでいたからです。
「だったら在宅勤務ができるかどうか、一緒にやってみようよ」ということになっただけのことです。

自身の経験からいうと、制度を入れることを目的にするのではなく、まず出現する一つひとつの事例に向き合うことの方が、案外近道なのかもしれません。
実際、在宅勤務のような制度は、最初に制度ありきでがちがちに仕組みをつくってスタートした企業に限って、実態とはかけ離れた絵空事のような仕組みの使い勝手の悪さに、制度が硬直してしまっています。
「最初の事例が出る前になんとかしなければならない」という発想から、「最初の事例の当事者の声を聴きながら、労使が一緒になって、そして数人の事例を積み重ねて、真に活用できる仕組みを数年かけて構築していくような取り組みをされている企業の方が、制度が定着してきているように感じます。
見切り発車のアクションチェンジの方が、マインドセットからの取り組みより案外功を奏しているようです。

そして、まさにやってみないと分からないもので、筆者自身も当初は「在宅勤務の方が自宅でどういう仕事の取り組みをしているのかをどう把握すべきか」が大切だろうと考えていました。
しかし、真に大切なことは、情報を吸い上げることではなく、会社で起こっていること、会社で見聞きできる情報を、どれだけ在宅勤務者にできるだけリアルタイムでシェアできるかどうかだったと、試行錯誤の中で気が付きました(弊社ではFace bookのグループで写真によりさまざまなリアルタイム情報を在宅勤務者に発信するなどの工夫をしています)。

また、在宅勤務者が存在できるのは、会社に出勤している社員がいるからこそであることも痛感することになりました。どちらも不可欠な存在だからこそ、その両者の相互理解や信頼をどうつくるかという当たり前の取り組みが、在宅勤務のルール作りなどよりずっと重要であることが分かってきました。そんなことはやってみないと分からない。しかしやってみたらすぐにわかる。ですから自社でノウハウを蓄積していく覚悟が必要でしょう。

逆にその過程で、想定外の効果に気が付くこともあります。
例えば弊社では、スタッフたちの文字で簡潔に伝えあう力が格段に上がりました。
ある企業は「働き方改革に取り組み始めて、少しずつ成果が出始めると、社員たちに余裕が出てきたのか、みんなが他者に対してやさしくなった気がします」と仰っていました。
「働き方改革」は案外、副次的なメリットもあるのかもしれません。

テレワークをして「生産性が高まった」と答える方は約半数に上るそうです。「なぜですか?」と聞くと、第1位は「集中して仕事ができるから」。裏返すと、わざわざ通勤して会社に来ても集中して仕事ができないとも捉えられます。
反面、一人ぼっちの方が集中はできても、革新性は多数で集うからこそ生まれるものでもあります。
このバランスをどう実現するか。

人間がシステムやルールに合わせる時代から、システムやルールの側が人に合わせる時代へ。
その取り組みの中で、オフィスのあり方そのものを考えていくことになるのでしょう。

株式会社オフィスあん/代表取締役 松下直子
(社会保険労務士、人事コンサルタント)

(2018/04/23)


松下直子さんの詳しい プロフィール http://oan.co.jp/company/member