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SDGsとビジネス ~人権の視点から企業はどう受け止めるべきか~(1)  |人権情報

持続可能な開発のための2030アジェンダ

SDGs(エス・ディー・ジーズ)という言葉をよく見聞きするようになってきました。一般の新聞にも最近よく出てきますし、自治体の諸施策とSDGsが関連づけられたり、学校の授業で取り上げられたりもしています。そして、企業のCSRページなどでも、SDGsのカラフルなロゴマークをよく見かけます。

2015(平成27)年9月、国連持続可能な開発サミットで「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、その中で掲げられた17の目標がSDGs(持続可能な開発目標)です(アジェンダは「行動計画」や「政策課題」といった意味です)。貧困、飢餓、保健、教育、ジェンダー、労働、水、エネルギー、気候変動など、多岐にわたる課題に取り組むことを宣言したこのSDGsは、2015(平成27)年までに国際社会が達成を約束した「ミレニアム開発目標」(MDGs)を継承するとともに、2012(平成24)年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)で課題とされた環境面での持続可能性目標を統合して策定されたものです。17の目標のもとには169の具体的な「ターゲット」が設定されています。

「2030アジェンダ」の冒頭では、
経済・社会・環境の3側面がバランスのとれたかたちで持続可能性を達成することが必要で、
②SDGsは途上国だけでなく先進国も含めた世界全体の目標・ターゲットであり、
③「誰一人取り残さない(no one will be left behind)」 ために
最も遅れているところから最優先で取り組むことが宣言されています。

このように「2030アジェンダ」には、SDGsの前提となる非常に重要な内容が書かれており、SDGsの部分だけでなく、その前後を含めた「2030アジェンダ」全体を読むことが欠かせません。

 

 

SDGsと企業

多くの企業がSDGsに関連する取り組みを進めていますが、「2030アジェンダ」自体も企業の果たす役割の重要性について述べています。SDGsの目標17では、SDGsの実現のために「公と民、市民社会のパートナーシップ」の重要性が強調されていますが、これに関連して「2030アジェンダ」の最後の部分では、「民間企業の活動・投資・イノベーションは、生産性及び包摂的な経済成長と雇用創出を生み出していく上での重要な鍵である。・・・我々は、民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める」と書かれています。

2016(平成28)年12月に策定された日本政府の「SDGs実施指針」でも、これを受けて「SDGsの達成のためには、公的セクターのみならず、民間セクターが公的課題の解決に貢献することが決定的に重要であり、民間企業が有する資金や技術を社会課題の解決に効果的に役立てていくことはSDGsの達成に向けた鍵でもある」としています。

こうした背景のもと、SDGsをビジネスに取り入れる動きが世界的な流れとなっています。日本でも同様で、2017(平成29)年2月に行われた日本経団連会員企業へのアンケート調査では、SDGsに「すでに対応している」が29%、「近いうちに対応する予定である」が10%、「どのように対応するか検討している」が31%と、多くの企業がSDGsに関心を示していることがわかります。今後こうした傾向はますます強くなると思われます。

そしてすでに対応している企業では、「SDGsのフレームワークや目標にあわせて、自社の取り組みをマッピングしている」が37社、「SDGsの目標達成に向けた取り組みを開始している」が26社、「SDGsへの対応を事業計画に盛り込んでいる」が14社、「SDGsへの対応方針を策定している」が13社となっています。

概して、企業の取り組みは、自社の事業がSDGsのどの目標と関連しているかという「関連づけ」(マッピング)の段階から、事業計画や基本方針に盛り込むことで企業経営全体に組み込み、いかに企業価値を高めていくかという経営との「統合」を目指す方向に進んでいるといえるでしょう。

また、「グローバル目標を達成することで、12兆ドルの機会創出になります」との「より良きビジネス、より良き世界」(ビジネス&持続可能開発委員会が2017(平成29)年1月に出した報告書)の記述がよく引用されますが、SDGsをビジネスの機会と捉える考え方も盛んになってきています。

SDGsと人権

つぎに人権の視点から考えてみましょう。実はSDGsの17目標の中で「人権」が出てくるのは、目標4の中のターゲット4.7の人権教育に関する記述だけです。しかし、SDGs全体をみれば、どれもが「人が生きること」と直接・間接に関わりのある課題であることがわかります。その多くが人権課題の具体的な展開になっているともいえるでしょう。

さらに、先ほど「2030アジェンダ」全体を読むことが欠かせないと述べましたが、SDGsより前の冒頭の部分には、より直接的につぎのように書かれています。「新アジェンダは、国際法の尊重を含め、国連憲章の目的と原則によって導かれる。世界人権宣言、国際人権諸条約、ミレニアム宣言及び2005年サミット成果文書にも基礎を置く」。また、「人権、人の尊厳、法の支配、正義、平等及び差別のないことに対して普遍的な尊重がなされる世界」をめざすべきであり、「人種、肌の色、性別、言語、宗教、政治や信条、国籍や社会的出自、貧富、出生、障がい等の違いに関係なく、すべての人の人権と基本的な自由を尊重、保護、促進する責任」をすべての国が有する、ともされています。先に触れた「誰一人取り残さない」も、こうした基本的な理解と合意のもとにあるスローガンであるといえるでしょう。

ここに表れている「SDGsと人権」の課題を、企業はどう受け止めればいいのでしょうか。実は、先に引用した「創造性とイノベーションを発揮することを求める」とされた「2030アジェンダ」の企業に関する部分では、すぐあとに続けてつぎのように書かれています。「『ビジネスと人権に関する指導原則と国際労働機関の労働基準』『児童の権利条約』及び主要な多国間環境関連協定等の締約国において、これらの取り決めに従い労働者の権利や環境、保健基準を遵守しつつ、ダイナミックかつ十分に機能する民間セクター活動を促進する。」

世界中の製品やサービスは、そのほとんどが企業の事業活動によって生み出されています。生産、雇用から消費に至るまで企業の影響力は絶大で、だからこそSDGsに掲げられた諸課題の解決のために企業が果たす役割が「鍵」とされるわけです。言い換えると、企業は「創造性とイノベーション」を発揮してSDGsの課題の解決のために「プラス」の影響を及ぼしてください、ということです。

一方、「ビジネスと人権に関する指導原則」や人権諸条約などの国際基準に従って「労働者の権利や環境、保健基準を遵守しつつ」と後段で述べられていることは、企業として「SDGsと人権」を受け止める際に非常に重要な意味を持ちます。これは、人権の尊重も忘れないでください、ということで、後に述べるように「指導原則」に即していえば、企業の事業活動が人びとに及ぼす「マイナス」の影響も同時に考慮してください、ということです。

CSR(企業の社会的責任)の中で人権課題を考える際にも、この「プラス/マイナスの影響」は最も基本的な視点となります。「CSRは社会に与える影響に対する企業の責任である」と定義したEUの「CSR についての欧州連合新戦略」(2011(平成23)年)でも「株主ほかステークホルダー、社会全体との間で、共通価値の創造を最大化する」ことと、「企業がもたらす可能性のあるマイナスの影響を特定、防止、軽減すること」を具体的な目的として掲げています。前者は「プラス」の、後者は「マイナス」の影響と位置づけることができます。どちらも欠かせない重要な視点なのです。

では人権への「マイナスの影響」は、どう考え、どう取り組めばいいのでしょうか。これを理解するために、「指導原則」を中心とする「ビジネスと人権」の考え方にまで少し遡って考えてみます。(次回に続く)

 

一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)
特任研究員 松岡秀紀

(2018/06/26)