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虹色ダイバーシティ(2) 「性別を変えて働きたい」と言われたら… |性的マイノリティの目線から見える社会

虹色ダイバーシティ 代表 村木真紀
ホームページ http://www.nijiirodiversity.jp/

性別をめぐるトラブル

職場における性的少数者への対応として、虹色ダイバーシティに最も多く寄せられている相談は、「男性社員から、今後は女性社員として働きたいと申告されたが、どうしたらよいか」というものです。
男性から女性へのトランスジェンダー、または、性同一性障害の方の場合、外見や言動の変化が周囲から見えやすく、そのままの職場で勤務し続けるのであれば人事等に申告せざるを得ない場合が多いようです。逆に、女性から男性への移行の場合は、ボーイッシュな女性という立ち位置で通す事が出来たり、そもそも正社員として勤務しておらず、性別を変える時に職場も変えてしまったりするため、あまり表面化していないという事情もあるように思います。
ほとんどの企業では、どのような対応をすべきか職場としての方針がなく、個別ばらばらの対応になっており、その中で、様々なトラブルが発生しています。上長からの拒絶、職種の変更や異動の強制、同僚の女性社員の抵抗感、他の社員からのイジメ、当事者のメンタルヘルスの悪化、離職、等です。

相談を受けるにあたって

トランスジェンダー(以降の記述では性同一性障害者も含みます)と言っても、服装だけ変えたい人やトイレや更衣室等の配慮が必要な人など、ニーズは人によって異なります。人事部、上長等の職場の管理者は、まずは落ち着いて、本人の話を聞くようにして頂きたいと思います。その際は、以下のポイントに配慮をして下さい。
・トランスジェンダー当事者は、カムアウトによって仕事を失うのではないか等の恐怖を抱えています。まず、職場の管理者として、その人が職場でいきいきと働いてもらいたいと思っていること、そのための環境を整備し、職場全体の生産性を落とさないよう調整することがこの相談の目的だということを、はっきりと伝えるようにして下さい。
・プライバシーを保てる環境で落ち着いて相談できるよう、時間と場所を選んで下さい。
・本人の了解なしに、家族や産業医、同僚や上司に相談しないようにして下さい。自分が当人の信頼を失う事になるだけでなく、本人と周囲の人間関係に重大なトラブルを起こす場合があります。(家族にカムアウトしていない場合もあります)
・トランスジェンダーの人全てが、戸籍上の性別を変えたい、性別適合手術を受けたいと考えているわけではありません。決めつけを行わずに、話を聞くようにして下さい。
・相談する本人も、「女性になりたい」「女性として扱われたい」という思いが先行して、具体的にどう対応して欲しいのか、ニーズが整理できていない場合があります。相談の中で具体的に整理するようにして下さい。
・身体的、社会的に深刻な問題を抱えていても、トランスジェンダーである事に関連して、問題を誰にも相談できていない事があります。自殺念慮がある等、緊急性が高く、プロのカウンセラーが必要な場合は、当事者向けの相談窓口を紹介するようにして下さい。(虹色ダイバーシティのホームページをご参照下さい)
・一度の相談で解決する事はほとんどありません。長期的な対応が必要である事をお互いに了解するようにして下さい。当事者も、自分の身体的、社会的な状況が変わると、職場でのニーズが変化する場合があります。

当事者からの要望の事例

トランスジェンダー当事者からの要望がどんなものなのか、実際の事例をご紹介したいと思います。対応に当たる方は、本人のわがままだと一蹴せず、どうか真摯に対応して頂きたいと思います。性別への違和感は、日々向き合わざるをえないものであり、時に命に関わるほど切実なものです。
・女性の制服を着たい。制服自体が苦痛なので着たくない。
・○○君でなく、○○さんと呼んで欲しい。
・女性の外見(服装、化粧、髪型等)で働きたい。
・更衣室、トイレ、シャワーについて、男性用は使いにくい。女性用を使いたい。
・仕事上で使用する名前を女性名に変えたい。
・海外に性別適合手術に行きたいので、そのための休暇が欲しい。
・性別適合手術の術後の処置のために、休憩時間を増やして欲しい。
・同僚からイジメを受けているので、止めさせて欲しい。
繰り返しますが、人によってニーズはばらばらです。必ずしも上記の項目に当てはまらない場合があることをご了解下さい。

職場の対応の事例

私たちで把握している企業の対応の事例を記載しておきます。これらはあくまで例であり、一人一人のニーズと職場の状況に応じた、柔軟な対応が必要である事を明記しておきます。

服装関係
・関係のある従業員全員に上長から説明した後、服装の変更を認めた。
・周囲の理解が得にくい職場だったため、スカートではなく、女性もののパンツスーツで勤務してもらうようにした。
・いきなり逆の服装になるのではなく、徐々に移行していくことで、周囲の従業員に慣れてもらった。
・当人が営業職であったため、担当していた客先に上司が同行し、本人の了解の元で説明を行い、理解してもらった。(「最近はそういうのもありますよね。仕事さえしっかりして頂ければ問題ありません」、という反応だったとのこと)

設備関係
・関係する従業員に管理者から説明した後、トイレと更衣室の変更を認めた。
・女性社員の抵抗が強く、また、本人も女子トイレは気を遣うとのことだったので、障害者向けのトイレを使用してもらう事にした。
・更衣室に間仕切りのカーテンを設置し、当人に限らず、誰でも使用できるようにした。

対応の根拠
・本人からの訴えと直属の上司の口添えで対応を決定した。
・会社の産業医、もしくは、カウンセラーに面談してもらい、対応を決定した。
・医師による性同一性障害、または、性別違和症候群の診断書を対応の根拠とした。(診断書を対応の根拠には出来ない場合がある事に注意が必要です。トランスジェンダーの人が、全て性同一性障害とは限りません。自分は病気ではないと考える人もいますし、性同一性障害に詳しい医師は全国でも少数です。)

まとめ

トランスジェンダーはどの職場でも一定数存在しますので、自分の職場では対応出来ないとして排除しようとする事は現実的ではなく、また、貴重な人材を失う恐れがあります。職場としての対応について、人事や管理者が研修を受け、対応する準備をしておいて頂きたいと思います。
また、実際に当事者からカムアウトされた場合は、個別のニーズに寄り添い、長期的な目線で対応をするようにして下さい。初めての場合は戸惑う事もあるかと思いますが、意外に様々な職場で対応の事例があり、事務職、工場、病院、各種専門職、行政等で実際に活躍している当事者たちがいます。トランスジェンダーだからといって仕事を諦めなければいけない状況というのは、本人にも職場にも非常にもったいないことだと思います。そして、トランスジェンダーへの対応を通じて、今まで見えなかった男女の性別による差別的な取扱いを見つけ、是正するチャンスにもなります。是非、前向きに対応して頂きたいと思います。

以上

虹色ダイバーシティ(1) 職場で働く性的少数者たち

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(2013/02/18)