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虹色ダイバーシティ(1) 職場で働く性的少数者たち |性的マイノリティの目線から見える社会

虹色ダイバーシティ 代表 村木真紀
ホームページ http://www.nijiirodiversity.jp/

話題のLGBT市場

2012年7月、「週刊ダイヤモンド」と「週刊東洋経済」で、そろってLGBT市場の特集が組まれました。LGBTというのは、以下の単語の頭文字を並べたものです。
・レズビアン Lesbian(女性同性愛者)
・ゲイ Gay(男性同性愛者)
・バイセクシュアル Bisexual(両性愛者)
・トランスジェンダー Transgender(性別越境者、性同一性障害者を含む)
このLGBTを始めとする、セクシュアル・マイノリティ Sexual Minority(性的少数者)と呼ばれる人たちと企業との関係が、日本でも注目されるようになってきたと感じます。

可視化されない労働者としてのLGBT

消費者としての面が注目されているLGBTですが、もちろん会社の中にもいます。今、これを読んでいるほとんどの皆さんと、すでに一緒に、職場で働いているはずです。LGBTの人口は、今年電通が日本で行った調査によれば、人口の5.2%だそうです。これは、20人の職場があれば、統計的には、そのうちの一人はLGBTだという事です。
「うちの職場には、そういう人はいない」と言われる事がありますが、それは、LGBTは見た目で判断できるという思い込みがあるためではないかと思います。20人に一人なのですから、もし見た目で分かるのであれば、ほぼ全ての企業、職場に存在しているはずです。「そういう人はいない」と多くの人が思ってしまうのは、日本では、当事者たちが職場でLGBTであることを公表(カムアウト)することが本当に少ないからです。断言します。「いない」のではないのです。「言えないでいる」、または、「言えるような状況にない」のです。

カムアウトできない背景

LGBTは、「オカマ」「変態」「オトコオンナ」などと呼ばれ、子どもの時から、日常的に笑いやイジメの対象になっています。テレビの中、学校の中、職場の中でもです。その中で育った当事者たちは、ほとんどの場合、自分の事を友人にも家族にも言えません。ましてや職場で同僚や上司に言える人がどれだけいるでしょうか?
当事者が社会的なカムアウトを躊躇してしまうという状況には、社会的な背景があると私は考えています。同性愛者や性同一性障害者の人権は、日本では、「その他の人権課題」の一つという扱いです。法的な状況は以下の通りです。
・同性愛者等であることは、違法ではない。
・同性愛者等への差別を禁止する法律はない。
・同性のパートナーへの法的保障(同性婚、パートナー法等)はない。
LGBTを守る法律がないという事は、ほとんどの会社の就業規則や差別禁止ポリシーにも入っていないという事です。また、学習指導要領にも入っていないため、教育を受ける機会もありません。
これを職場について考えると、従業員が何か困った時に相談窓口となるべき場所が、LGBTに関する知識を持っているとは限らない、という事になります。上司、人事、組合、医療機関、産業カウンセラー、これらは全ての従業員が安心して相談できる、セーフティネットであるべき場所です。しかし、LGBT当事者から見ると、誰がLGBTについて理解があるのか分かりませんので、自分の状況をどこまで話していいのか、と、相談をためらってしまいます。LGBTにとっては、社会的なセーフティネットが機能していないということが問題なのです。

LGBTが困っている事

LGBTであることは、プライベートの問題で、職場で話すべき事ではないと考える人も多いです。私自身も、当初はそう思っていました。しかし、就職してみると、LGBTでない人は、職場でも自分のプライベートをことさら隠してはいない、という事に驚きました。チームの中の日常会話に、配偶者の話や子どもの話が頻繁に出てきます。もちろんこれは、異性愛者だという前提での話です。家族の写真を見せてもらう事もありましたし、デスクに飾っている人もいました。私には同性のパートナーがいましたが、カムアウトをしていなかったため、同僚と同じ事はできませんでした。
どんな人を大事に思っていて、どんな暮らしをしているのか。これは公的な場で言えない「性愛」の話ではなく、法律や職場でもサポートされるべき「くらし」の話なのです。
「くらし」の話が職場で出来ないという事は、以下のような多くの問題に繋がります。
・日常的にLGBTをからかうような職場の雰囲気が無形の圧力になっている。
・緊張、不安、孤立といったストレスが、メンタルヘルスに影響する。(うつ、ストレス障害、アルコール依存、自死、休職、離職等の要因のひとつになっている)
・職場の規定に記載がなく、昇進差別、解雇、いじめ等の恐れがある。
・上司、労働組合、産業医等にLGBTに関する知識がないことが多く、職場の相談窓口が利用しにくい。

職場のLGBT対応を進めよう

LGBTと職場の問題に何も対応しないと、職場におけるLGBTの生産性が15%?30%も落ちる、と言われています。これは当事者だけに関する話ではありません。チーム全体に影響があります。LGBT対応を何もしない事は、貴重な人材を十分に活かせず、損をしている状態だ、というのが私の認識です。
従業員の中のLGBTと向き合い、LGBTであってもいきいきと働く事が出来る職場を作ろう、という目標を掲げて、今年、友人とともに「虹色ダイバーシティ」(※)というグループを作りました。私たちは、職場の中のLGBTの問題について、調査、講演、コンサルティング等の活動を行っています。
「虹色ダイバーシティ」の活動を通じて得られた知見、LGBT対応として出来る事や、海外や日本の実際の事例等について、これから何回かにわたってこちらでご紹介したいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

※「虹色」は「性の多様性」を表し、LGBTのシンボルとして世界中で使われています。ここでの虹は7色でなく、赤、橙、黄、緑、青、紫の6色が使われています。「ダイバーシティ」は、職場の人材の多様性を高めることで、よりしなやかで力強い組織をつくろうという人事戦略上の用語です。日本でダイバーシティといえば、女性、障害者、外国籍住民のための施策に止まっていますが、私たちはその中にLGBTを入れることを提案しています。

 

虹色ダイバーシティ(1) 職場で働く性的少数者たち

虹色ダイバーシティ(2) 「性別を変えて働きたい」と言われたら…

虹色ダイバーシティ(3) 海外企業のLGBT対応

虹色ダイバーシティ(4) 日本初、LGBTの職場環境に関する調査(1)

虹色ダイバーシティ(5) 日本初、LGBTの職場環境に関する調査(2)

虹色ダイバーシティ(6) CSR担当者がLGBTに注目、大阪で初の勉強会開催

虹色ダイバーシティ(7) LGBTへの差別的言動は「セクハラ」になります

虹色ダイバーシティ(8) 企業のLGBT担当者になるワークショップ

虹色ダイバーシティ(9) LGBT施策は当事者以外の人にも効果あり?

虹色ダイバーシティ(10)2014年、LGBTに関する動き

 

 

 

(2013/01/07)