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虹色ダイバーシティ(9)LGBT施策は当事者以外の人にも効果あり? |性的マイノリティの目線から見える社会

虹色ダイバーシティ 代表 村木真紀
ホームページ http://www.nijiirodiversity.jp/

同性婚を考慮しない商品は差別?

LGBTに関して、大きなニュースが続いています。2014年春に任天堂の「トモダチ コレクション」というゲームがアメリカで発売予定だと発表されましたが、プレイヤーが同性同士では結婚ができない設定であることが判明し、それが差別的であるとメディアの非難を浴び、日本でも大きく報道されました。世論の反発を見て、5月9日に任天堂は「多くの皆さんを失望させた」と謝罪の声明を出しています。
同性結婚ができる国や地域(アメリカの場合は州単位で違いがあります)で、商品やサービスを開発するのであれば、同性同士のカップルも当然想定しておく必要があります。例え差別的な意図がなくても、想定していないこと自体が差別だと捉えられてしまうこと、それがインターネットで一夜にして広がり、世界的なボイコット運動に繋がる恐れがあることを、グローバルに活動する企業は肝に銘じる必要があるでしょう。

2014年7月21日、オバマ大統領は連邦政府と取引のある企業に対して、LGBTへの差別を禁止する大統領令にサインしました。「性的指向」だけでなく「性自認」に関する差別にもNOという内容であったのが画期的でしたが、これによりアメリカ全土で新たに1400万人が雇用における差別から守られることになります。この大統領令の対象は「連邦政府の取引先」ですから、もちろん日系企業も含まれています。今後、対象企業は、差別禁止規定の整備など、LGBTに関する取り組みが求められることになるでしょう。

雇用の場におけるLGBT差別の禁止、商品やサービスにおけるLGBTへの配慮は、少なくともEUやアメリカでは、企業経営上、必須のものになりつつあるのです。

日本の職場の状況は

日本の職場における状況ですが、LGBT当事者が職場でカミングアウトすることは少なく、いじめや不当解雇があっても、なかなか把握しにくいのが現実です。私たちは昨年に引き続き、インターネット上でアンケート調査をしていますので、その結果を簡単にご報告したいと思います。
2013年のアンケートへの参加者は1,124人(当事者のみ)、2014年は1,815人(非当事者約30%を含む)でした。(国際基督教大学ジェンダー研究センター(CGS)との共同研究)

セクシュアリティの分類

今回の調査では、出生時の性別と「性自認」が同じで、「性的指向(好きになる相手の性)」が「性自認」と同じ性別に向かう人をレズビアン女性(L)、ゲイ男性(G)とし、両性、性別を問わないと回答した人をバイセクシュアル男性、女性(B)としています。トランスジェンダーはMTF、FTMとそれ以外のMTX他、FTX他を分類しています。
 ※1.FTM(Female To Male)は、身体的、社会的な性別が女性である人が、男性へと移行すること
※2.FTXは、出生時の性別が女性で、現在は中性、Xジェンダー等という性自認を持つ人
※3.MTF(Male To Female)は、身体的、社会的な性別が男性である人が、女性へと移行すること
※4.MTXは、出生時の性別が男性で、現在は中性、Xジェンダー等という性自認を持つ人

設問によって有効回答数に違いがありますが、例えば年代別の割合は以下の通りです。
 N=

差別的言動は当事者以外にも悪影響

前回の調査でもLGBTに関する差別的言動がある職場は、人間関係が悪く、ストレスが高い傾向がありましたが、今回のアンケートでも差別的言動が職場環境を悪化させていることが示唆されました。差別的言動が多い職場は、人間関係が悪く、仕事へのやりがいを感じにくく、勤続意欲が低い傾向があります。

今回の新しい発見は、これが当事者以外でも同じであったということです。LGBTに限らず、誰かを攻撃するような風土がある職場は、ストレスが高く、個人を大切にできない職場であるのかもしれません。女性や障がい者への差別的言動は、法的規制や社内規定があり、さすがに憚られる職場も多いのではないかと思いますが、LGBTに関してはまだ人権問題だという認識が社会的に浸透していないため、差別的な言動が現れやすいのではないでしょうか。LGBTに関する差別的言動は、職場の風土をはかる物差しになり得ると私は考えています。

望む性別で働けることの意義

今回のアンケートでは「職場における性別」を聞いていますが、これと性自認が食い違っている場合は、勤続意欲が低いという結果になりました。トランスジェンダーが望む性別で働けていないことは、大きなストレスになると考えられます。逆に、望む性別で働けている場合は、勤続意欲があがるとも言えるでしょう。前回の調査では、トランスジェンダーの転職率が高いという結果でしたが、これは性別をかえるタイミングで転職してしまう人がいるからではないかと思われます。
私たちは「性別移行ヒアリングシート」を開発し、ホームページで公開していますが、トランスジェンダーが自分の望むタイミングで、在職しながら性別を変更できる環境を整備する必要があると考えています。
http://www.nijiirodiversity.jp/公開資料/

LGBT施策の効果

「LGBT施策」に関して、企業や行政で推進する際に必ず聞かれる質問が、それによってどんな効果が見込めるのか、ということです。今回のアンケートはそれに応えるデータが欲しいという意図もあったのですが、結果は、私たちの予想以上でした。LGBT施策がある職場は、当事者のやりがいが高い傾向があり、非当事者も含めて、「ダイバーシティ意識(ダイバーシティ(女性、障がい者、外国人など、多様な人材の活用)に対する理解、取り組みは浸透していると思う)」割合が高くでました。ダイバーシティ意識が高い職場は、差別的言動が少なく、やりがいも高く、人間関係もいい、そして、勤続意欲も高い職場だったのです。
企業の人事、ダイバーシティ担当者で、LGBT施策を推進したいと考えている人にとって、このデータは上長を説得する材料になります。LGBT施策は数パーセントの当事者のためだけでなく、周囲の非当事者にもプラスの影響があると示唆されているのです。

ちなみに、何らかのLGBT施策があるという回答は、外資系で47%、日系で14%でした。外資系と日系で大きな開きがありますが、これは他の調査結果とも一致しています。東洋経済CSR調査では、LGBTに関する基本方針があるという回答は607社中114社(19%)であったのに対して、アメリカのHuman Rights Campaign の調査ではフォーチュン500の91%に性的指向による差別禁止ポリシー、61%に性自認による差別禁止ポリシーがあります。アメリカの企業も調査を続けるうちに数値が上昇しているので、今後、日本でも継続的な調査が望まれます。

理解者、支援者(アライ)の重要性

職場にアライがいるとどのような効果があるのかも今回知りたかったことのひとつでしたが、これについても非常に興味深いデータが得られました。まず、職場で誰かにカミングアウトしている率が大きく違います。アライがいる職場は43%の当事者がカミングアウトしていますが、いない場合はたった11%でした。そして、カミングアウトの有無は勤続意欲と関係があり、カミングアウトしている方が勤続意欲は高いのです。

私が普段お話ししている中でも、「自社にはまだカミングアウトしている当事者はいない」という人事の方は多いのですが、このデータから考えると、数千人、数万人の従業員がいながら、誰もカミングアウト出来ていないという職場風土は問題があると思います。当事者の勤続意欲が低い、つまり、機会があれば辞めたいと思っているかもしれないのです。カミングアウトはもちろん個々の当事者の選択ですが、職場にアライがいる方が、当事者のストレスが少なく、人間関係が良好だという結果もでています。当事者の離職防止と職場環境改善のためにも、職場内のアライを増やすこと、及びその「見える化」が重要なのです。

以上

虹色ダイバーシティ(1) 職場で働く性的少数者たち

虹色ダイバーシティ(2) 「性別を変えて働きたい」と言われたら…

虹色ダイバーシティ(3) 海外企業のLGBT対応

虹色ダイバーシティ(4) 日本初、LGBTの職場環境に関する調査(1)

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虹色ダイバーシティ(9) LGBT施策は当事者以外の人にも効果あり?

虹色ダイバーシティ(10)2014年、LGBTに関する動き

 

(2014/09/01)