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虹色ダイバーシティ(3) 海外企業のLGBT対応 |性的マイノリティの目線から見える社会

虹色ダイバーシティ 代表 村木真紀
ホームページ http://www.nijiirodiversity.jp/

企業が同性結婚を支持する?

現在、アメリカでは婚姻制度は州によって違っており、同性結婚のできる州と出来ない州があります。国全体でみると、連邦法である「結婚保護法DOMA」で結婚は男女のものとされているのですが、このDOMAの是非が、今、最高裁で争われています。
2013年2月末、DOMAを廃止する、つまり、同性結婚を国レベルで認めることができるようにすることを求めて、アメリカの大手企業が要望書を出したことが日経新聞でニュースになりました。

○「同性婚を認めて」全米200社以上が最高裁に意見書
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGN28005_Y3A220C1000000/
(一部引用)
マイクロソフト、グーグル、シティグループ、ファイザー……、全米200社以上の企業が27日、最高裁判所に男女のカップルしか結婚と認めないとした連邦法、結婚保護法(Defense of Marriage Act、DOMA)を廃止するよう求める意見書を提出した。別の企業グループも28日、同性婚を禁じたカリフォルニア州法について、提出する予定だ。
同性愛者には優秀な人材が多く、年収も高いとされる。彼らを雇用したり、顧客に持つ企業は同性婚も異性婚と同等に扱うようになっているが、「DOMAが社員を不平等に扱うよう求めている。全米に展開する企業ほど負担が大きい」。

記事中にもありますが、アメリカ全土でビジネスをする企業では、州によって結婚制度が違うと、州によって社員の福利厚生制度等を変更する必要がでてくるため、確かに非効率であろうと思われます。
しかし、これらの企業が同性結婚を支持するのは、単に人権擁護や社内手続きのコストを下げるためだけではありません。同性結婚を支持する姿勢を公に見せることには、LGBT市場へのアピール、投資家へのアピール、優秀な人材の獲得、つなぎとめ(リテンション)、社内のLGBT従業員の生産性向上など、様々なメリットがあるのです。

ちなみに、同性結婚を支持する企業のリストは以下のサイトでまとめられています。そうそうたる企業が並ぶ中、日本企業からはパナソニックが参加しています。

○同性婚を支持する企業、団体のリスト
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_organizations_that_support_same-sex_marriage_in_the_United_States

アメリカでのLGBT対応の事例

アメリカでは企業がどのようなLGBT対応をしているのか、社内の従業員対応に絞って、実際の事例をご紹介しましょう。こちらは昨年のニュースで、北米トヨタの対応を紹介しています。

○トヨタの新ダイバーシティ担当者はLGBTにスポットライトをあてている
http://www.edgeboston.com/news/workplace/news/130937/toyota%E2%80%99s_new_diversity_director_spotlights_lgbt_employees
(LGBT対応に関する箇所を抜き出し)
・LGBTの従業員グループをつくる
・従業員の同性パートナーに対して(異性の配偶者と同じ)保障を提供する
・トランスジェンダー従業員への対応(ホルモン治療や性別適合手術への医療保険適用など)
・Corporate Equality Index(CEI: LGBT団体が行う調査に基づく「LGBTに関する企業平等度指数」)で100点満点を取得

上記のCEIの内容は、以下のようなものです。隣の数値は北米トヨタの実際の得点で、合計すると100点になります。
http://www.hrc.org/corporate-equality-index/

・性的指向による差別を禁止する成文規定がある(+15点)
・性自認による差別を禁止する成文規定がある(+15点)
・同性パートナーへの福利厚生が整備されている(+25点)
・トランスジェンダー対応が整備されている(+5点)
・LGBTに関する社内教育が行われている(+10点)
・社外向けのLGBTマーケティングや支援をしている(+15点)
・LGBT従業員グループがある(+15点)
・差別的な活動に資金提供していないか(-0点)

以上、北米トヨタの例をご紹介しましたが、アメリカにおける企業のLGBT対応は、単に差別禁止規定をつくるだけでは全く十分ではないことがお分かり頂けるかと思います。CEIは、お金をかけて福利厚生制度を整備し、社内グループをつくり、社内教育を行い、社外向けにも情報発信することで、やっと高得点がとれるしくみになっています。

LGBT対応による期待効果

アメリカの企業は、なぜここまでお金をかけてLGBT対応を行うのでしょうか?決して法律で強制されている訳ではありません(一部、州法で職場のLGBT対応を規定している州もあり、その場合は違反すると罰則がありますが)。
先のニュースに出てきた、北米トヨタの担当者はこんな風に言っています。「CEIで満点の称号を得ることは、どの業界でも待望されている。サプライヤー側からも、顧客側からも、雇用、従業員のつなぎとめ、従業員募集にとても重要になっているからだ」。

私たち、虹色ダイバーシティでは、企業の中でLGBT対応を推進することは、以下のようなメリットがあると考えています。
・生産性の向上:LGBTが安心して自己開示できるようになることで、信頼に基づいた活発なコミュニケーションが実現し、LGBT当事者のみならず、チームとして生産性が向上する。
・LGBT市場対応:従業員としてのLGBTへの配慮が、消費者としてのLGBTに好感を与える。
・CSR対応:海外投資家からのCSR調査には人権の項目にLGBTが含まれているが、ほとんどの日本企業は何も回答出来ない中で、ポイントを上げる事が出来る。特にヨーロッパ等の同性結婚ができる国では、コンプライアンス(法令遵守)の観点からも必須。
・グローバル人事対応:グローバルな人材獲得競争で有利。人材のつなぎとめ(リテンション)にも有効。

企業間競争の時代へ

CEIの点数は、個々の企業ごとに見るだけではなく、業界別に並べられて、「Buyer’s Guide(買い物ガイド)」としてもまとめられています。これはiPhone向けの無料アプリになっており、LGBT当事者や人権に関心の高い層が利用することが想定されています。車用品、ペット用品、カフェ、洋服など、日常の買い物で、CEIの点数が高い、LGBTに優しい企業を選んで、製品やサービスを買うことが出来るようになっているのです。消費者としてのLGBTの力を活かして、従業員としてのLGBTの職場環境を改善しようという、非常によく出来たしくみだと思います。

振り返って日本企業を見ると、まだLGBT対応をしている企業の方が少なく、LGBT対応をするか、しないかで、社内で議論になる状態です。アメリカは、すでにその段階は過ぎて、同業他社と比較して、どれだけのことが出来るか、という企業間競争の時代になっています。これは人権のためでもありますが、ビジネスのためでもあります。
アメリカでビジネスをしている日本企業は、もちろん、北米トヨタだけではありません。是非多くの企業に、この潮流に乗り遅れないよう、LGBT対応を推進して頂きたいと思います。そして、アメリカと同じことを、是非日本でも実施して欲しい、というのが私たちの願いです。

以上

虹色ダイバーシティ(1) 職場で働く性的少数者たち

虹色ダイバーシティ(2) 「性別を変えて働きたい」と言われたら…

虹色ダイバーシティ(3) 海外企業のLGBT対応

虹色ダイバーシティ(4) 日本初、LGBTの職場環境に関する調査(1)

虹色ダイバーシティ(5) 日本初、LGBTの職場環境に関する調査(2)

虹色ダイバーシティ(6) CSR担当者がLGBTに注目、大阪で初の勉強会開催

虹色ダイバーシティ(7) LGBTへの差別的言動は「セクハラ」になります

虹色ダイバーシティ(8) 企業のLGBT担当者になるワークショップ

虹色ダイバーシティ(9) LGBT施策は当事者以外の人にも効果あり?

虹色ダイバーシティ(10)2014年、LGBTに関する動き

 

 

 

 

(2013/04/15)