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虹色ダイバーシティ(10) 2014年、LGBTに関する動き |性的マイノリティの目線から見える社会

虹色ダイバーシティ 代表 村木真紀
ホームページ http://www.nijiirodiversity.jp/

メディアの変化

2014年は、かつてないほどメディアでLGBTという言葉が取り上げられた一年でした。虹色ダイバーシティの活動も、NHK「ニュース深読み」「NEWS WEB」、Eテレ「エデュカチオ!」、日本テレビ「NEWS ZERO」、日本経済新聞、その他新聞各紙、ラジオ、雑誌、米CNNにまで取り上げられています。Eテレの福祉番組だけでなく、一般のニュースやドキュメンタリーでもLGBTの話題が積極的に取り上げられるようになってきた気がします。

バラエティー番組では、未だにLGBT当事者を笑いものにしたり、気持ち悪がったりする、過剰で不快な演出もありますが、それも徐々に変わってきているように感じます。特に、10月のTBS「世界の日本人妻は見た!」では、フランスで同性結婚をしている女性同士、男性同士のカップルが取り上げられましたが、他の異性同士のカップルと同様のトーンで、スタジオの出演者の反応も共感的であったのが素晴らしかったと思います。

著名人のカミングアウト

経済界の大ニュースは、アップル社のCEOティム・クック氏のカミングアウトでした。元々当事者の間では知られていたことですが、公表後にアップルの株価が最高値を記録したのは驚きでした。LGBTは人口の数%ですから、当然大手企業の経営層にいてもおかしくはないのですが、市場への影響を懸念して、なかなか公表できる人はいませんでした。そこに、世界で一番時価総額の高い会社の社長が公表して、それが市場にも好意的に受け入れられた、というのは強い影響力があると思います。今後も、彼に続く大物経済人のカミングアウトがあるかもしれません。

水泳の北島康介選手のライバルだったオーストラリアの金メダリスト、イアン・ソープ氏のカミングアウトにも驚かれた方が多いと思います。スポーツ選手の場合は、ファンやスポンサー、チームメイトへの影響を心配することが多いのですが、彼の場合はゲイであることを隠すというストレスで、うつやアルコール依存症になっていたそうです。職場でLGBTであることに関係するストレスがあると、仕事の生産性が落ちるという研究もありますが、これはスポーツのパフォーマンスも同様であろうと思います。

オリンピック・パラリンピックとLGBT

スポーツと言えば、ロシアのソチで、オリンピック、パラリンピックが開催されましたが、その直前にロシアで成立した反同性愛法に抗議して、米仏独の大統領、首相がオリンピック開会式を欠席する騒ぎとなりました。米検索大手グーグルは、開会式の日に合わせて、LGBTへの支援を表す虹色でウィンタースポーツを描いたロゴをトップページに掲出し、これはロシア政府への当てつけではないかと話題となりました。

このソチにおいても、カミングアウトした選手は7人いて、うち、バイセクシュアルだと公表していたオランダのイレイン・ブスト選手はスピードスケートで金メダルを獲得しました。日本で金メダルを獲得した羽生結弦選手の演技も非常に感動的でしたが、彼のコーチ、振付師、衣装デザイナーはゲイでした。一流選手やスタッフの中にも、当然LGBTはいるのです。

ロシアが反同性愛法のために世界中から非難され、オリンピック・ボイコット運動も起こったため、その後のIOC(国際オリンピック委員会)の総会では、今後の開催都市にLGBTへの差別禁止を求めることが決議され、オリンピック憲章 第6章の差別禁止規定にも「性的指向」の文字が明記されることとなりました。
日本はロシアと同様に、LGBTへの差別を禁止する法律がない国のひとつです。東京での開催までに、私たちはLGBTも含むすべての人への「おもてなし」を、しっかり検討する必要があると思います。

「アナと雪の女王」と「ハリー・ポッターの世界」

今年の大ヒット映画、ディズニーの「アナと雪の女王」は、実はLGBTと関連が深い作品です。この作品に描かれる「真実の愛」が「男女」の愛ではなく、世界を凍らせる魔力を持ったエルサ女王の葛藤がLGBT当事者の葛藤とよく似ていて、さらに声優陣に実際にゲイだとカミングアウトしている俳優がいたことから、「ゲイ・プロパガンダ映画」だと一部の国でボイコット騒動が起きました。
主題歌「Let It Go(邦題:ありのままで)」は、本当の自分を隠して孤立していたエルサが、自分はこれでいいと能力を解放し自分自身を承認する歌ですが、確かに私もLGBT当事者の気持ちにぴったり当てはまる歌詞だと思います。

大阪では7月、USJに映画ハリー・ポッターの世界を再現したコーナーがオープンし、内外から多くの旅行客を集めました。ハリー・ポッターの作者であるJ.K.ローリングは非常にLGBTフレンドリーな方で、魔法学校の校長先生はゲイだという設定を明らかにしたり、ファンからの質問に答えて「魔法学校にはLGBTの生徒もいたはず」と発言したりしています。
「アナと雪の女王」と「ハリー・ポッターの世界」の共通点は、LGBTなどの少数派を含む、多様な登場人物のいる世界観が作品の魅力になっており、それが少数派だけでなく多くの人を引きつけている、ということだと思います。

企業の関心の高まり

11月には東京・汐留のパナソニック様に会場をお借りして、「Work With Pride 2014」を開催しました(日本IBM、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、グッド・エイジング・エールス、虹色ダイバーシティの共催)。これはLGBTと職場の問題に関するトークイベントで、企業の人事、ダイバーシティ、人権教育やCSRの担当者、およそ200名が集まりました。初回が約50名、ソニー様に会場をお借りした第2回が約130名、第3回の今回が200名超です。急速に関心が高まっているのを実感しました。
パネルディスカッションでは、大阪ガス、ソニー、日本IBMのLGBT施策のご担当の方から、各社の状況を報告して頂いたのですが、これがとても参考になったとのことで、90%以上の非常に高い参加者満足度でした。外資系企業やグローバル企業だけでなく、日本市場をメインとする企業もLGBT施策に関心を持ち始めたというのは、大きな変化だと思います。

2015年も、LGBTが働きやすい職場環境づくり(英語ではWorkplace Equality(職場での平等)と表現します)を、より一層推進していきたいと思います。この記事を読まれた皆さんも、是非、周囲の方とこの話題について話してみて頂きたいと思います。

★ 虹色ダイバーシティの村木様からのLGBT情報は今回をもって一旦終了いたします。

以上

虹色ダイバーシティ(1) 職場で働く性的少数者たち

虹色ダイバーシティ(2) 「性別を変えて働きたい」と言われたら…

虹色ダイバーシティ(3) 海外企業のLGBT対応

虹色ダイバーシティ(4) 日本初、LGBTの職場環境に関する調査(1)

虹色ダイバーシティ(5) 日本初、LGBTの職場環境に関する調査(2)

虹色ダイバーシティ(6) CSR担当者がLGBTに注目、大阪で初の勉強会開催

虹色ダイバーシティ(7) LGBTへの差別的言動は「セクハラ」になります

虹色ダイバーシティ(8) 企業のLGBT担当者になるワークショップ

虹色ダイバーシティ(9) LGBT施策は当事者以外の人にも効果あり?

虹色ダイバーシティ(10)2014年、LGBTに関する動き

(2015/03/30)